第369話
第369話
ルミナリアとの対話を終えたルシアンとフィアナは、ゆっくりと目を開いた。
白い世界は消え去り、二人は聖女専用礼拝室へ戻ってきていた。
祭壇も、神像も、何一つ変わらない。
まるで先ほどまでの出来事が夢だったかのように、礼拝室は静寂に包まれていた。
フィアナは胸に手を当て、小さく息を吐く。
だが、その胸に刻まれた真実が消えることはない。
世界の均衡、ルシアンの計画。そして、彼が歩もうとしている未来。
全てを知ってしまった。
「行きましょう」
ルシアンが静かに声を掛ける。
「はい」
二人は礼拝室を後にした。
礼拝堂前へ戻ると、まだ誰も戻ってきていなかった。
ルシアンとフィアナは静かに待つことにする。
しばらくして、廊下の奥から足音が聞こえてきた。
「おっ!」
最初に姿を現したのはガイウスだった。
「二人とももう終わってたのか!」
その顔には隠しきれない笑みが浮かんでいる。
「どうでしたか?」
フィアナが尋ねる。
「守護の神バルティアの加護だった!」
ガイウスは嬉しそうに拳を握る。
「守りに特化した加護らしい!俺にぴったりだろ!」
ルシアンが微笑む。
「ええ。前衛として仲間を守るあなたには最適ですね」
「だよな!」
ガイウスは満足そうに笑った。
その後、テオドールも戻ってくる。
「どうだった?」
ガイウスが尋ねる。
「知識の神ノウィスの加護だった」
テオドールは落ち着いた口調で答える。
「魔法の理解力や構築速度が向上するらしい」
「なるほど」
ルシアンが頷く。
「知識を司る神ですから、テオドールらしい加護ですね」
「悪くない」
そう答えながらも、口元には僅かな笑みが浮かんでいた。
続いてノエルも戻ってくる。
「私は法の神ユスティア様の加護だった。契約や判断力、それに索敵能力とも相性がいいって言われたよ。シルフィとルナとの繋がりも強くなるみたい」
「それは良かったですね」
フィアナも嬉しそうに微笑む。
「精霊術師として、とても相性の良い加護だと思います」
「うん」
ノエルも嬉しそうに頷いた。
やがてセシルも戻ってくる。
「私は以前から授かっていた加護が、さらに強まったそうです」
「さすが聖騎士だな」
ガイウスが感心する。
「まだまだ未熟です」
セシルは少し照れたように笑った。
そして最後に廊下の奥から、足早にレオンが姿を現した。
「みんな!聞いてくれ!」
満面の笑み。
その表情だけで、何か特別なことがあったのだと全員が察した。
「俺!戦の神ヴァルガン様から寵愛を授かった!」
その場の空気が一瞬止まる。
「ヴァルガン様の……寵愛ですか」
フィアナが驚きの表情を浮かべた。
「おう!」
レオンは力強く頷く。
「加護じゃなくて寵愛だって!」
セシルも目を見開く。
「フィアナ様に続いて、神の寵愛を授かる方が現れるとは……しかも戦神ヴァルガン様とは」
フィアナも静かに頷いた。
「寵愛は、神から特別に認められた者だけが授かる祝福です。教会の記録にも、授かった方はほんの僅かしか残されていません」
「戦神ヴァルガン様の寵愛となれば、なおさらです」
「へぇ……」
ガイウスが素直に感心する。
「やっぱ勇者ってすげぇんだな」
テオドールも腕を組んだ。
「勇者として認められたということか」
「たぶん!」
レオンは照れくさそうに笑う。
「それだけじゃないんだ。ヴァルガン様と少し話もした」
その言葉に全員の視線が集まる。
「どんな話をされたんですか?」
ルシアンが尋ねる。
「この前のゼルキスとの戦いを見てたらしい」
レオンはその時のことを思い返す。
「負けはしたが、いい根性だったって」
「その調子で、もっと強くなれって言われた」
レオンは自然と拳を握り締める。
「だから俺、もっと強くなるよ。次は絶対に負けない。ゼルキスにも、それ以上の相手にも」
その瞳には強い決意が宿っていた。
ルシアンは静かに微笑む。
「きっと、ヴァルガン様も期待しているのでしょう。その期待に応えられるよう、頑張ってください」
「もちろん!」
レオンは力強く頷いた。
仲間たちも、それぞれ祝福の言葉を送る。
明るい笑い声が礼拝堂前に響く。
その光景を見つめながら、ルシアンは静かに息を吐いた。
(順調ですね)
勇者は着実に成長している。
ヴァルガンから寵愛を授かったことは、その証明でもあった。
そして、だからこそ。
いつか訪れる未来が胸を過る。
勇者レオン。その剣は、いつの日か自分へ向けられる。
そのためにも、彼はもっと強くならなければならない。
ルシアンは表情を変えることなく、静かに口を開いた。
「皆さん。私はこの後、教皇様からお話がありますので、少し席を外します」
「ああ、そうだったな」
レオンが頷く。
「行ってこい」
「はい」
ルシアンは仲間たちへ軽く一礼すると、一人教会本部の奥へ歩き始めた。
向かう先は、教皇アウグストの執務室。
そこでは既に、教皇と聖騎士長ラグナルが待っていた。




