第363話
第363話
数日間の旅路を経て、一行はついに聖国リュミエルへと辿り着いた。
白亜の城壁に囲まれた聖都。高くそびえる神殿の尖塔、澄み渡る鐘の音が街中へ響き渡っている。
「……すげぇな、ここが聖国か」
ガイウスが思わず感嘆の声を漏らした。
初めて目にする光景に、目を輝かせている。
レオンたちも街並みに目を奪われる。
一行は街の正門へ向かう。
門には数名の門番が立ち、入都する者たちを確認していた。
「――っ!」
一行が近づいた瞬間、門番の一人が目を見開いた。
次の瞬間には慌てて姿勢を正し、深く頭を下げる。
「せ、聖女フィアナ様……!」
周囲の門番たちも一斉に振り返り、同様に頭を垂れた。
緊張が走る。
フィアナは少し驚いたように瞬きをしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「お久しぶりです」
「すぐに迎えを手配いたします!」
門番は慌てて言葉を続ける。
「恐れ入りますが、詰所にて少々お待ちいただけますでしょうか」
「はい。構いません」
一行は門の脇にある詰所へ案内される。
しばらくすると、鎧姿の男女二人が足早にやって来た。
胸には聖騎士団の紋章。
二人はフィアナの前で膝をつく。
「フィアナ様、お帰りなさいませ」
「教皇猊下より、お迎えに上がるよう命を受けております」
フィアナは軽く頷いた。
「ありがとうございます」
そのまま一行は用意された馬車へ案内される。
馬車は石畳の道をゆっくりと進み始めた。
街の人々は、聖騎士に護衛された馬車を見ると自然と道を空ける。
「あれは……」
「聖女様ではないか」
「フィアナ様がお戻りになられたぞ!」
人々の声が広がっていく。
やがて姿を見つけた信徒たちは、その場で祈りを捧げ始めた。
「光の神ルミナリア様のご加護がありますように……」
「聖女様……」
頭を垂れる者、胸の前で手を組む者。
幼い子どもまでが母親の真似をして祈りを捧げていた。
レオンたちはその光景を驚いた表情で見つめる。
「すごいな……」
ガイウスが思わず呟く。
「こんな光景、初めて見たぞ……フィアナって、本当に聖女なんだな」
フィアナは少し困ったように笑うだけだった。
「皆さん、変わりませんね」
やがて馬車は聖国最大の神殿へ到着した。
巨大な白い柱、天井まで届く荘厳な扉。
一行は聖騎士に案内され、その奥へと進んでいく。
幾つもの廊下を抜け、辿り着いたのは来賓を迎えるための大広間だった。
扉が開かれる。
そこには十名ほどの人物が待っていた。
中央に立つ一人の男。
年齢は四十代半ばほどのはずだが、若々しい容姿、整った黒髪、鋭い眼差し、厳格さをそのまま形にしたような人物だった。
現教皇――アウグスト・ルクシエル。
その隣には、一際大柄な男が立っている。
鍛え抜かれた肉体、腰には剣、背には大盾。
聖騎士団を束ねる男、聖騎士長ラグナル・ガルシア。
さらに数名の司教や聖騎士団幹部たちもその場に控えていた。
フィアナは静かに一礼する。
「ただいま戻りました」
教皇アウグストはゆっくりと頷いた。
「よく戻りました、フィアナ」
そして視線は勇者パーティへ移る。
「そして勇者レオン並びに諸君。聖国リュミエルは諸君らを歓迎しよう」
厳しい表情のまま告げられたその言葉には、確かな歓迎の意志が込められていた。




