第358話
第358話
負傷したレオンたちは、アーカディア学園内に急遽設けられた診療所へ運ばれていた。
ベッドに横たわるレオン、ガイウス、ノエル、テオドール。
フィアナは一人ひとりの容態を確認すると、小さく息を吐いた。
「命に別状はありません」
ルシアンは静かに頷く。
「ありがとうございます」
フィアナは周囲を見渡した。
診療所にはまだ多くの負傷者が運び込まれている。
「私は他の方の治療へ向かいます」
「ええ、お願いします」
フィアナは足早に診療所を後にした。
その背を見送り、ルシアンも歩き出す。
(ヒューギル様に報告しておきましょう)
しばらく学園内を歩いていると、人影のない中庭の一角で話をしている二人の姿を見つけた。
ヒューギル、そしてエイル。
「ヒューギル様」
二人が振り向く。
「ルシアンか」
「少し報告があります」
ヒューギルは静かに頷いた。
「聞こう」
ルシアンは簡潔に説明を始める。
「都市の外に展開していた魔物と魔族は全て殲滅しました。その後、都市へ戻り、ゼルキスと交戦」
「最後は広域魔法によって敵を撤退へ追い込むことに成功しました」
話を聞き終えたヒューギルは、小さく息を吐く。
「……やはりお前だったか」
隣のエイルも苦笑した。
「助かったわ。私は邪神教のヴァルクレインと戦っていたのだけれど、倒すこともできず、時間だけ稼がれてしまったわ」
ヒューギルも続ける。
「私の相手はバルドリックだった」
エイルは驚いたように目を見開く。
「バルドリックというと……元ルミナス騎士団総長の?」
「ああ、そうだ」
ヒューギルは静かに頷く。
「奴の目的も私の足止めだったようだ」
一度言葉を切り、表情を曇らせる。
「そして調べたところ……地下に封印されていた邪神の欠片がなくなっていた。おそらく邪神教に持ち去られたのだろう」
ルシアンは静かに状況を整理する。
「なるほど、今回の襲撃の目的はそれですか」
「ああ」
ヒューギルは重々しく頷いた。
「これで邪神の復活は、さらに一歩近付いてしまった」
重苦しい沈黙が流れる。
ヒューギルは壊れた街並みへ目を向けた。
「一般人だけではない。教員も……学生にも少なからず死者を出してしまった」
その声には、守れなかった者への悔しさが滲んでいた。
「アーカディアは、しばらく街の再建に取り組まなければならない。それに伴い、学園の運営もしばらくはできなくなるだろう」
ルシアンも静かに頷く。
「そうでしょうね」
「おそらく三ヶ月もあれば、建物などはある程度復旧する」
「それまでは各自で行動ということでよろしいですか?」
「ああ、構わん」
ヒューギルは答える。
「追って全体へ通達を出すとしよう」
「わかりました」
ルシアンは一礼した。
「それでは」
そう言い残し、その場を後にする。
残されたヒューギルは、遠ざかるルシアンの背中を見つめながら、小さく呟いた。
「……本当に、とんでもない男だ」
エイルも苦笑を浮かべる。
「ええ。でも、あの子がいてくれたから、アーカディアは滅びずに済んだ」
崩れた街の向こうでは、今もなお復旧作業が続いていた。
失ったものは大きい。
それでも、人々は前を向いて歩き始めていた。




