第357話
第357話
アーカディアから脅威は去った。
しかし、その爪痕はあまりにも大きい。
街の至る所で建物が崩れ、黒煙が空へ昇っている。
倒れた騎士、泣き崩れる人々、懸命に救助へあたる学生たち。
命を守れた者ばかりではなかった。
この襲撃で、多くの犠牲が生まれていた。
そんな光景を静かに見つめながら、ルシアンは口を開く。
「ひとまず危機は去りましたか」
隣に立つフィアナへ視線を向ける。
「フィアナは大丈夫ですか?」
フィアナは小さく頷いた。
「私は大丈夫です。みんなも傷は治してありますので、大丈夫だと思います」
ルシアンは安堵したように微笑む。
「それはよかったです」
静かな時間が流れる。
燃え残る建物が音を立てて崩れた。
「……ルシアン」
「何でしょう?」
フィアナは真っ直ぐルシアンを見つめる。
「貴方は一体、何者なのですか?ゼルキスとの戦闘もそうですが……先ほどの魔法」
「あれはまるで……」
言葉が詰まる。
ルシアンはその続きを静かに口にした。
「まるで神のようだ、とでも言うつもりですか?」
フィアナは何も答えられなかった。
否定できなかった。
あの光景は、神話そのものだった。
少しの沈黙。
やがてルシアンが口を開く。
「前に、時期が来たら私の秘密を話すと言ったのを覚えていますか?」
フィアナは頷く。
「レオンの加護を確認しに行った時ですね」
「そうです」
ルシアンは静かに続けた。
「フィアナになら、私の秘密を話しましょう」
フィアナは目を見開く。
だが、続く言葉は意外なものだった。
「しかし、もう少し待ってください。私がただ話すよりも、フィアナが納得できる説明をする方法があります」
「私が……納得できる方法?」
「ええ」
ルシアンは少しだけ考えるように空を見上げる。
「そうですね……ひと月以内には話せると思います」
フィアナはしばらくルシアンを見つめていた。
その瞳に嘘はない。
だからこそ、小さく微笑む。
「わかりました。その時には、ちゃんと説明してくれるのですね」
「はい」
ルシアンは迷いなく答える。
「約束します」
そして少しだけ真剣な表情になった。
「ですが、一つお願いがあります」
「なんでしょう?」
「今回のことは、誰にも話さないでほしいんです」
「誰にも……ですか?」
フィアナは少し考える。
この秘密の重さは理解していた。
それでも、ルシアンを信じたいと思った。
「……わかりました。誰にも話しません」
ルシアンは柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます」
そう言うと、倒れているレオンたちへ視線を向ける。
「それでは、まずはみんなを運びましょう」
「ええ」
二人は並んで歩き出した。
瓦礫の街を。
それぞれ胸に新たな秘密を抱えながら。




