第355話
第355話
「――《アポカリプス・レイ》」
魔法は完成した。
空を覆う巨大な魔法陣が眩く輝く。
その中心から、一筋、また一筋。淡い光が静かに降り始めた。
それはまるで夜空を流れる流星。
やがて一筋は十に、十は百に、百は千に。
無数の光は雨となり、アーカディア全土へ静かに降り注いでいく。
美しかった。
誰もが思わず息を呑むほどに。
まるで神が星々を地上へ降ろしたかのような、幻想的な光景。
だが、その光は決して無差別ではない。
邪神教徒、魔物、魔族。
ルシアンが敵と認識した存在だけを正確に捉え、一条の光となって降り注ぐ。
目の前のゼルキスにも、無数の光が襲い掛かった。
ゼルキスは《冥夜刀ネブラ》を振るい、光を斬り裂く。
避け、捌き、受け流す。
「この程度の攻撃じゃぁ、俺は倒せないよぉ!」
笑みを浮かべながら叫ぶ。
ルシアンは静かに答えた。
「知っています」
《アポカリプス・レイ》。
ルシアン考案のオリジナル。その本質は超広域殲滅魔法。
アーカディア全域を覆うほど広範囲へ展開した代償として、一条一条の威力は抑えられている。
強者を討つための魔法ではない、戦場そのものを制圧するための魔法。
ゼルキスへは意図的に出力を上げている。
それでも、決定打には程遠い。
――別の戦場。
ヴァルクレインは降り注ぐ光を苛立たしげに避け、魔剣で弾き飛ばす。
「鬱陶しい……」
――ドラクスの戦場。
ドラクスは豪快に笑いながら両腕を交差させる。
降り注ぐ光をその肉体で受け止める。
「ガハハハッ!痛ぇな!」
それでもなお笑みは消えない。
――ヒューギルとバルドリック。
降り注ぐ光を、バルドリックは一切表情を変えずに剣で斬り捨てていく。
ヒューギルは空を見上げ、小さく息を吐いた。
「これが……ルシアンの力」
強者たちは耐えられる。
だが、それ以外は違った。
光が魔物を貫く。断末魔を上げる暇もなく崩れ落ちる魔物。
邪神教徒の悲鳴が街中へ響く。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
「な、なんだこの光は!」
魔族も例外ではない。
避けきれなかった者は光に撃ち抜かれ、地へ倒れていく。
空を見上げる市民たちは、その美しさに言葉を失っていた。
だが、敵にとってその光景は、まさしく悪夢だった。
やがて、各地に散っていた邪神教徒と魔族へ命令が飛ぶ。
「撤退だ!目的は達した!引け!」
その一声で、生き残った者たちは一斉に戦場から離脱を始める。
天より降り続ける終焉の光に追われるように。




