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果てなき世界  作者: 影川明空人
第7章 学園2年目 武闘大会編
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第353話

第353話


 ルシアンはゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れた。


 瞬間、空間を満たしていた異質な魔力が全身を包み込む。


 重く、深く、底知れない魔力。


 しかし、その中心に置かれている黒銀色の指輪からは、何も感じられなかった。


「……」


 見た目は至って普通の指輪。


 装飾もほとんどなく、神々しさすら感じられない。


 だからこそ、不気味だった。


 これほど異質な空間の中心にありながら、その存在だけがあまりにも静かすぎる。


 ルシアンはゆっくりと近付く。


 警戒しながら観察する。


 魔法陣はない、罠もない。異常は何一つ見当たらなかった。


「……」


 そっと手を伸ばす。


 黒銀の指輪を手に取った。


 感じられるのは、僅かな魔力だけだった。


 まるで長い年月を眠り続け、完全に力を失っているかのようだった。


「これは……」


 その時だった。


 ルシアンの身体の奥底で、三柱の神性が同時に反応する。


 風の神・シルヴァリオン、闘いの神・ベルグラード、影の神・ラウネリス。


 三つの神性が共鳴し始めた。


 それに応えるように、黒銀の指輪が淡く輝く。


「これは……神性に反応している?」


 光は徐々に強くなる。


 まるで長い眠りから目覚めるように。


 停止していた何かが、ゆっくりと動き始めた。


 その瞬間ルシアンは、この気配に覚えがあることに気付く。


 以前ベヒモスとの戦いの後、ヒューギルに言って、アーカディアで保管されていた神器を見せてもらった時と同じ感覚。


「まさか……神器?」


 だが、すぐに首を横へ振る。


「いや、しかし……」


 ヒューギルから聞いていた二十四の神器。


 そのどれとも一致しない。


「現存すると言われている二十四の神器の、どれにも当てはまらない。これは一体……」


 ルシアンはゆっくりと指輪を左手へ嵌める。


 その瞬間、膨大な情報が脳内へ流れ込んできた。


 この指輪は固定された形を持たない。


 剣、槍、杖、双剣、大剣、弓、鎖、籠手。


 使用者の意思に応じて自在に姿を変える。


 さらに、その変化は単なる変形ではない。


 使用者にとって最も適した形状へ、自ら最適化される。


「……凄まじい武器ですね」


 ルシアンはゆっくりと息を吐いた。


 そして、意識を指輪へと向ける。


「まずは……剣」


 その瞬間、黒銀の指輪が淡く輝き、形を崩した。


 液体のように溶け、ルシアンの手の中で再構築される。


 次の瞬間、そこには一振りの剣が握られていた。


 黒銀の刀身、無駄のない洗練された形状。


 握った瞬間、まるで長年使い込んできたかのような馴染みを感じる。


「……完璧ですね」


 軽く振るう。


 空気を裂く音が鋭く響いた。


 次に意識を変える。


「槍」


 剣が再び崩れ、伸びる。


 瞬く間に長柄の槍へと変化した。重さも、重心も、理想的。


 突き出す動作が自然に身体へ馴染む。


「……なるほど」


 実際に様々な武器に変えてみた。


「……本当に、あらゆる戦闘に対応できる」


 最後にルシアンは意識を緩める。すると武器は再び崩れ、黒銀の指輪へと戻った。


 静かに左手に収まる。


 まるで何事もなかったかのように。


「……凄まじい」


 だが流れ込んだ情報を最後まで確認しても、一つだけ存在しないものがあった。


 名称。


 この神器には、名前が記されていなかった。


 いや、最初から存在しないのか、あるいは失われたのか。


 それは分からない。


 ルシアンは静かに黒銀の指輪を見つめる。


「ならば、こう名付けましょう」


 口元にわずかな笑みを浮かべた。


「《零環アルス・ノヴァ》」


 その名が告げられた瞬間、黒銀の指輪は一際強く輝き、まるでその名を受け入れるように静かに脈動した。


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