第352話
第352話
――時は、およそ一か月前へ遡る。
ルシアンは再び黒嶺山脈を訪れていた。
依頼主はヒューギル。
目的は一つ、この山に満ちる異質な魔力の正体を突き止めることだった。
「以前より魔力が濃くなっていますね」
山中を進みながら、襲い掛かる魔物を淡々と斬り伏せていく。
Sランクの魔物でさえ足止めにもならない。
目的地は以前、ヴォイドによって崩落に巻き込まれ、地下へ落ちたあの巨大な穴。
ほどなくして穴へ辿り着くと、ルシアンは足元へ魔法陣を展開する。
「さて」
重力を制御し、ゆっくりと地下へ降下していく。
深く、さらに深く。
光は消え、静寂だけが支配する世界。
着地すると、そのまま奥へ歩き始めた。
やがて、周囲の景色が変わる。
岩肌には白い霜が張り付き、天井からは巨大な氷柱が垂れ下がっている。
吐く息が白く染まるほどの低温。
以前、四天王イリシアと遭遇した場所だ。
ルシアンは立ち止まることなく、その先へ進んでいく。
進めば進むほど、異質な魔力は濃くなっていく。
空気そのものが重い、気温もさらに下がる。
普通の人間なら数分で凍えてしまう環境。
しかし、ルシアンにとっては何の問題もなかった。
「もうすぐですね」
そして、長い通路を抜けた先で、ルシアンは足を止める。
そこには巨大な扉がそびえ立っていた。高さは十メートルを超える。黒い金属で造られた重厚な扉。
表面には幾重にも魔法陣が刻まれ、淡く輝いている。
「封印……ですか」
ルシアンは扉へ手をかざした。
「この中のようですね」
黒い影が手元から溢れ出す。
それはルシアンの能力――喰収。
影はまるで捕食するかのように封印へ絡み付き、その力を喰らい始めた。
魔法陣が一つ、また一つと光を失っていく。
やがて。
パリン――。
静かな音と共に封印は完全に砕け散った。
ルシアンは扉へ手を掛ける。重々しい音を響かせながら、巨大な扉がゆっくりと開いていく。
その先には広大な空間が広がっていた。
中央には一つの台座。
そして、その上には一つの指輪が静かに置かれていた。
ルシアンは静かにそれを見つめた。
「これは……」




