第350話
第350話
ルシアンは静かに周囲を見渡した。
倒れたテオドール、血塗れで動かないガイウス、意識を失ったノエル。そして、満身創痍のレオン。
立っているのはフィアナだけだった。
ルシアンはレオンの姿を見て、小さく息を吐く。
「オーバードライブを使いましたね」
レオンは苦笑する。
「ごめん。約束、破った」
ルシアンは静かに首を横へ振った。
「いいえ、正解です」
そのままゼルキスが吹き飛んだ方向へ視線を向ける。
「あれが相手なら、それくらいしなければ、到底及びません」
瓦礫が崩れる音が響く。
次の瞬間、大きな瓦礫を押し退けながら、ゼルキスが姿を現した。
服には土埃が付いている。
しかし、その表情は怒りではなく。
興奮に満ちていた。
「やっときたねぇ!ルシアン!」
嬉しそうに笑う。
「待ちくたびれて、勇者くんのこと殺しちゃうとこだったよぉ!」
ルシアンは淡々と答えた。
「間に合ったようで良かったです」
そして振り返る。
「フィアナ、レオンの回復をお願いします」
フィアナは頷き、すぐにレオンの傍へ駆け寄った。
「ええ。大丈夫ですか、レオン」
癒やしの光がレオンを包み込む。
その間にルシアンとゼルキスはゆっくりと歩み寄る。
互いの間合い、あと一歩踏み込めば届く距離。
ゼルキスは待ち切れないというように笑った。
「やっと前の続きができるねぇ」
ルシアンは剣を静かに構える。
「あまり余裕はありません。やるなら早くしてください」
「ふふっ」
ゼルキスが消えた。
魔力で形成した黒紫の爪。
さらに、闇魔法、風魔法、空間魔法。
三つを織り交ぜた猛攻が、一瞬でルシアンへ降り注ぐ。
だが、ルシアンは一歩も退かない。
剣が閃く。爪を受け流し、闇を切り裂き、風を斬り払う。
空間の裂け目さえ見切り、その全てを紙一重でかわしていく。
そして反撃。
黒い斬撃がゼルキスを襲う。
ゼルキスも嬉しそうに爪で迎え撃つ。
火花が散る。
衝撃波が周囲を抉る。
あまりにも高度な技術。その一つ一つを倒れたままのレオンは必死に目へ焼き付ける。
(速い……いや、それだけじゃない。全部読んでる……!)
レオンにも分かった。
押しているのはルシアンだった。
しばらく激しい攻防が続いた後、ゼルキスは大きく後方へ飛び退く。
肩で息をすることもなく。
それでも興奮を隠し切れない笑顔を浮かべていた。
「やっぱり最高だよぉ、ルシアンはぁ!」
ゼルキスは頭を掻きながら笑う。
「これ使ったのバレたら、ガルドレインとかに怒られるかもしれないけどさぁ。もう我慢できない!」
そう言うと、空間魔法を発動する。
空間が歪み、一振りの刀がゆっくりと姿を現した。
美しい漆黒の刀身。
しかし、ただの刀ではない。
その瞬間、空気が変わる。
周囲の魔力が震え、大気そのものが重くなる。
フィアナが思わず息を呑んだ。
「あれは……神の気配……?」




