第34話
第34話
数日後、謁見の日が訪れた。
王城の奥、謁見の間。高い天井と重厚な柱。整然と並ぶ騎士たち。張り詰めた空気の中、一切の無駄がない。
ルシアンとアルベルトは、公爵に伴われてその場に立っていた。視線が集まる。だがルシアンは気にしない。ただ前を見ている。
やがて、重い音とともに扉が開く。
王が姿を現した。
ゆっくりと歩み、玉座に座る。それだけで場の空気が支配される。
「顔を上げよ」
低く、通る声。
ルシアンは顔を上げる。
視線が合う。
王――エルドリック・アルケシアは、しばらく何も言わない。ただ見ている。表面ではなく、奥を測るように。
「……なるほど」
短い一言。
「話は聞いている。ヴェルグレイヴ伯爵領の件、そして魔族の介入」
一拍。
「報告は、お前がするか」
「……はい」
ルシアンは一歩前に出る。
そして語る。
スタンピードの異常性。統制された魔物の動き。Sランク個体の出現。騎士団との迎撃。街への侵入。
そして――
「魔族の介入がありました」
空気がわずかに張り詰める。
「人型の個体。空間を操作する能力を持っています」
王の目が細くなる。
「Sランクの魔物は、その魔族により一撃で排除されました」
わずかなざわめき。
ルシアンは続ける。
「……我々では対処不能でした。戦闘は成立せず、一方的でした」
淡々と。
だが、その奥にあるものは隠しきれない。
「……見逃されました」
短く言い切る。
王はわずかに眉を動かす。
「……見逃された、か」
一拍。
「よく生き残ったものだ」
評価でもあり、事実でもある言葉。
ルシアンは何も言わない。ただ受け止める。
「……その魔族、名は名乗ったか」
ルシアンは一瞬だけ間を置く。
「……ゼルキス、と」
その瞬間――
空気が揺れた。
抑えきれないざわめきが広がる。
「ゼルキス……!?」
「まさか……!」
「魔族四天王の一角……!」
低く押し殺された声が連なる。
王は視線一つでそれを黙らせる。
再び静寂。
「……四天王が、動いたか」
静かに、重く告げる。
その一言で、この件の規模が確定する。
「これは国単位の問題だ。一領地の問題ではない」
断言。
視線がアルベルトへ向く。
「ヴェルグレイヴの血は途絶えていない。よって伯爵領は存続とする」
「はっ」
「復興には国が介入する。人員、資金、物資、すべてだ」
公爵がわずかに頷く。
「ただし完全な再建には時間がかかる。その間は代理人を置く」
「承知しております」
「お前は王都に残り、貴族学校を修了しろ。卒業後、正式に伯爵位を与える」
「はっ」
アルベルトは深く頭を下げる。
王はそれを受け、次にルシアンへ視線を向ける。
「……お前についても聞いている」
一拍。
「特異な魔力を持つ、と」
“黒”とは言わない。
だが、含みは十分だった。
「……はい」
ルシアンは逸らさない。
王はしばらく見つめた後、わずかに口元を緩める。
「恐れるつもりはない。むしろ、この状況では有用だ」
静かに言い切る。
「力は使い方次第だ。お前が何を為すかで価値は決まる」
ルシアンは黙って聞く。
「好きにやれとは言わん。だが、止めるつもりもない」
一拍。
「見せてみろ」
低く、確かに響く声で。
「お前が何者になるのかを」
ルシアンはわずかに目を細める。
「……はい」
それだけ答え、謁見は終わった。




