第346話
第346話
アーカディア学園地下。
薄暗い通路を、一人の男が歩いていた。
ロザリウス。
ゼルキスに受けた一撃は浅くない。
回復魔法を使う暇もなく、この場所まで辿り着いたため、法衣の下では未だ傷口が疼いていた。
「……」
先程までの昂りはもうない。
乱れていた心も落ち着きを取り戻していた。
今はただ、任務を遂行するだけ。
その時通路の奥から、一人の信徒が姿を現した。
深くフードを被り、その表情は見えない。
「ロザリウス様」
信徒は小瓶を差し出した。
「こちらを」
ロザリウスは受け取り、一息に飲み干す。
薬液が体へ染み渡り、痛みが少しずつ和らいでいく。
「ありがとうございます」
小瓶を返し、静かに尋ねる。
「それで、どうなっていますか?」
信徒はすぐに答えた。
「既に欠片が封印されていると思われる場所は特定されています。ゼロも既に準備ができています」
ロザリウスは小さく頷く。
「そうですか、それでは急ぎますか」
二人は地下通路を進む。幾重にも分かれた通路を抜け。
やがて、一枚の巨大な扉の前へ辿り着いた。
そこには既に数名の信徒が待機していた。
そして、その中央には一人の少年。
白い髪、虚ろな瞳。何の感情も浮かべず、ただ静かに立っている。
その少年を囲むように、五人の護衛が武器を構えていた。
ロザリウスが近付く。
「ご苦労様です」
護衛たちは一斉に頭を下げた。
「それでは」
ロザリウスは少年を見る。
「ゼロ」
「はい」
感情のない返事。
ゼロはゆっくりと封印の施された扉へ歩み寄る。
手を伸ばし、静かに触れた。
その瞬間、扉一面へ刻まれていた魔法陣が激しく明滅する。
次の瞬間には、ガラスが砕け散るような音と共に、封印そのものが崩壊した。
護衛たちが扉を押し開ける。
部屋の中央に一つの台座が置かれている。
その上には黒い箱。閉じられているにもかかわらず、禍々しい気配が漏れ出していた。
見る者の本能へ直接訴えかけるような、不吉な存在感。
ロザリウスは静かに近付く。
「……間違いありませんね」
邪神の欠片。
ついに目的の物へ辿り着いた。
ロザリウスは振り返る。
「ご苦労様でした。皆さんはゼロを連れて戻っていてください」
「はっ!」
護衛たちは一斉に敬礼する。そしてゼロを連れ出す。
少年は何も言わない。ただ従うだけ。
やがて籠へ乗せられ、そのまま運ばれていく。
地下通路にはロザリウスだけが残った。
彼は懐から、空間魔法が施された袋を取り出す。
箱へ静かに手を添え、そのまま袋へ収めた。
禍々しい気配は袋の中へ吸い込まれ、完全に遮断される。
ロザリウスは一度だけ目を閉じた。
「これで目的は達しましたね」
静かに踵を返す。
「先に離脱するとしましょう」




