第342話
第342話
アーカディア市街。
各地で激戦が続いていた。
エイルとヴァルクレイン。
両者の戦いもまた、熾烈を極めている。
剣と剣が幾度もぶつかり合い、衝撃波が周囲の建物を揺らした。
互いに一歩も譲らない。実力はほぼ互角。
「どうした」
ヴァルクレインが薄く笑う。
「焦っているようだな」
エイルは舌打ちする。
「当然でしょう。あなたと遊んでいる暇はないの」
街では今も学生や市民が戦っている。
一刻も早く助けへ向かわなければならない。
しかし、ヴァルクレインはそれを理解した上で立ちはだかっていた。
「お前をここから動かさない。それが俺の役目だ」
再び二人の剣が激突する。
◇ ◇ ◇
一方、最も凄惨な戦場となっていたのは、ドラクスのいる区域だった。
辺り一帯は崩壊している。
建物は倒壊し、大地は抉れ、炎が燃え盛っていた。
そこには多くの学生が倒れ伏している。
四年生ロイド・ガルディア。
“鉄壁の男”と呼ばれた男の巨大な盾は真っ二つに砕かれ、右腕は不自然な方向へ折れ曲がっていた。
三年生ディルク・ヴァレンツ。
重装鎧は原形を留めておらず、その巨体も血に染まっている。
そしてリオルド。
全身の骨が砕け、血だらけのまま建物へ叩き付けられていた。
意識はある。だが、身体はもう動かない。
脳裏へ蘇る、ほんの数分前の光景。
◇ ◇ ◇
「行くぞ!」
リオルドが地面を蹴る。
全身全霊、渾身の拳。身体の内部へ衝撃を浸透させる必殺の一撃。
当たれば、普通の相手なら内側から破壊される。
だが、ドラクスは受け止めることすらしなかった。
拳を受けながら笑っている。
「お?いい拳じゃねぇか」
傷一つない。
その事実にリオルドの目が揺れた。
その隙を埋めるようにロイドが前へ出る。
「下がれ!」
巨大な盾を構え、ドラクスの拳を受け止める。
次の瞬間。
轟音。
盾ごと腕が押し潰された。
「があぁぁっ!」
ロイドの身体が吹き飛ぶ。
続いてディルク。
「まだだぁぁぁ!」
大剣を振り下ろす。圧倒的な膂力を乗せた一撃。
しかし、ドラクスは片手で受け止めた。
「力はあるな」
そう言って笑う。
反対の拳がディルクの腹部へ突き刺さる。
鎧ごと身体が折れ曲がり、数十メートル先まで吹き飛ばされた。
「ディルク先輩!」
リオルドは叫びながら、再び踏み込む。
残った力を全て拳へ込める。
「うおおおおぉぉぉっ!」
全力。
人生最高の一撃。拳は確かにドラクスを捉えた。
しかし何も起きない。効いていない、一切通じていない。
リオルドの顔から血の気が引いた。
(そんな……これでも……届かないのか……)
ドラクスは楽しそうに笑った。
「悪くない一撃だった」
そして拳を握る。
「じゃあな」
振り抜かれた一撃。
リオルドの身体は砲弾のように吹き飛び、建物へ激突した。
そのまま崩れ落ちる。
◇ ◇ ◇
回想が終わる。
リオルドは霞む視界の中で立ち尽くすドラクスを見上げた。
誰も止められない、誰も勝てない。
そんな絶望が戦場を支配していた。
その時だった。
一つの影が戦場へ飛び込んでくる。
土煙の中から現れた男は、倒れた学生たちを見渡し、小さく歯を食いしばった。
「……間に合わなかったか」
ルミナス騎士団、アレス・グランツヴァルト。
ドラクスの目が輝く。
「おぉ!お前とは少し前に戦ったな!たしか……アレスだったな!」
アレスは剣を抜く。
「俺のことを覚えているのか」
ドラクスは豪快に笑った。
「お前さんは強かったからな。次はお前が相手をしてくれるのか」
アレスは静かに剣先を向ける。
「ああ、お前は俺が倒す」
ドラクスは獰猛な笑みを浮かべ、大きく拳を鳴らした。
「いいねぇ!やっぱり強ぇ奴との戦いは最高だ!」
炎が噴き上がる。
次の瞬間、二人は同時に地を蹴った。




