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果てなき世界  作者: 影川明空人
第7章 学園2年目 武闘大会編
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第338話

第338話


 私は、光の神ルミナリア様に全てを捧げていた。


 富はいらない、名誉もいらない。神に仕え、人々を救う。


 それだけが私の願いだった。


 教会から支給される食事も最低限でいい。余った食料は貧しい者へ渡した。


「ありがとうございます、ロザリウス様!」


 幼い子どもたちが嬉しそうに笑う。


 私は微笑み返した。


「神に感謝するのですよ」


 病に苦しむ者がいれば駆けつける。怪我人がいれば回復魔法を施す。老人も子どもも、身分の高低も関係ない。


 神の前では皆等しく一人の人間だった。


「本当に助かりました」


「お気になさらず。困った時は支え合うものです」


 その日々に迷いはなかった。


 これこそが神に仕える者の在り方だと信じていた。


 だがある日、私は教会内部の権力闘争に巻き込まれた。


 派閥争い、利権。信仰とは無縁の思惑が渦巻く場所。


 私はそれに関わるつもりなどなかった。


 だが、関わらずとも巻き込まれるのが権力というものだった。


 気付けば私は敗者の側に立たされていた。


 理由などどうでもよかった。


 教会の命令により、地方の小さな村へ左遷された。


 辺境、決して豊かとは言えない村だった。


 それでも、そこに暮らす人々は温かかった。


「ロザリウス様!」


「今日の野菜です!」


「昨日助けてもらったお礼です」


 貧しい。


 だが、互いを思いやる心があった。


 私は、この村が好きだった。ここで一生を終えてもいい。そう思えるほどに。


 数年が過ぎたその日までは。


 最初は一人だった。


 高熱、咳、原因不明の病。


 私は必死に治療した。


 回復魔法、薬草、看病。できることは全てやった。


 そして祈った。


「どうか……。どうか、この方をお救いください」


 何度も、何度も、何度も祈った。


 だが、神は応えてくれなかった。


 一人、また一人。命が消えていく。


 私は近隣の街や教会へ助けを求めた。


 返事は来なかった。誰も来なかった。


 疫病は村を飲み込み、多くの命を奪った。


 私は、自分の無力さを呪った。


 もっと力があれば、もっと知識があれば、そう何度も思った。


 だが、悲劇は終わらなかった。


 疫病で疲弊しきった村を、今度は魔物の群れが襲った。


 武器を持てる者もほとんど残っていない。


 逃げることすらできない。


 私は魔法を放ち、村人を守った。


 何体もの魔物を倒した。それでも数が多すぎた。


 炎が上がり、悲鳴が響き、子どもが泣く。


 私は叫びながら回復魔法を使い続けた。


 救えない、救えない、救えない。


 気付けば、村は壊滅していた。


 生き残ったのは、ほんの数名だけ。


「ロザリウス様……」


「ありがとうございました」


「あなたがいたから、生きられました」


 そう言って泣きながら頭を下げる人々。


 その言葉は、もう耳に入らなかった。


 私は生き残った村人たちを連れ、近くの大きな街へ向かった。そして、領主へ全てを報告した。


 教会へも足を運んだ。助けを求めるためではない、せめて事実だけでも伝えようと思った。


 だが。


「疫病で村が滅んだ?」


「その後は魔物か」


「はははっ」


「災難だったな」


 笑い声。


 教会の中で、神に仕えるはずの者たちが。


 笑っていた。


 その瞬間、私の中で何かが壊れた。


 毎日祈った、人を救った、慈愛の心を忘れなかった。


 それでも、神は誰一人救わなかった。


 人は弱き者を見捨て、嘲笑った。


 私は静かに教会を後にした。


 その帰り道。


「……世界に絶望したか」


 聞き覚えのない声が響いた。


 振り返る。


 黒い外套を纏った一人の男が立っていた。


 その男は静かに私を見つめる。


「ならば知るがいい。この世界を壊す方法を」


 その男こそ、邪神教の教主だった。


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