第337話
第337話
街外れ。
勇者パーティの前に、一人の男が立っていた。
黒く染まった法衣、禍々しい錫杖。
その姿を見たテオドールの表情が変わる。
「まさか……」
「私はロザリウス。邪神教幹部の一人です」
レオンたちにも緊張が走る。
幹部。
その言葉だけで、目の前の男がこれまでの邪神教徒とは別格であることが分かった。
ロザリウスは穏やかな笑みを浮かべたまま、フィアナだけを見つめている。
「ようやくお会いできましたな。聖女様」
フィアナは静かに一歩前へ出た。
「あなたが……ロザリウス」
「はい。昔は私も、あなた様と同じ立場でした」
その言葉にレオンが剣を構える。
「フィアナ、下がって。話す必要はない」
ガイウスも盾を前へ出す。
「相手は邪神教幹部だ。油断するな」
しかしロザリウスは小さくため息をついた。
「邪魔をしないでいただきたい。私は聖女様と話がしたいのです」
錫杖を軽く地面へ突くと黒い魔法陣が広がった。
周囲で倒れていた邪神教徒たちがゆっくりと立ち上がる。
その瞳は赤黒く染まり、溢れ出る魔力が一段と高まっていく。
「邪法か……!」
テオドールが叫ぶ。
ロザリウスは表情一つ変えない。
「行きなさい」
その一言で、強化された教徒たちが一斉に襲い掛かった。
「迎え撃つ!」
レオンが先頭へ飛び出す。
ガイウスが盾で受け止める。
ノエルが横へ回り込み、テオドールが魔法を放つ。
フィアナも援護魔法を展開しながら、ロザリウスから目を逸らさなかった。
戦闘の最中、ロザリウスは静かな声で問い掛ける。
「聖女様。あなたは、神を信じていますか」
フィアナは短く答えた。
「信じています」
ロザリウスは少しだけ目を細める。
「そうですか。では、もう一つ聞きましょう」
邪神教徒たちがなおも襲い掛かる。
レオンたちは戦い続ける。
その中でもロザリウスの言葉だけは、不思議とよく聞こえた。
「神は、あなたの願いを聞き届け、誰かを救ってくださったことはありますか」
一瞬、フィアナは黙った。
だが、すぐにロザリウスを見据える。
「あります。すべての願いが叶うわけではありません。すべての人が救われるわけでもありません。それでも私は、神を信じています」
ロザリウスはその答えを聞き、静かに笑った。
優しい笑みではない。
どこか諦めきったような、寂しい笑みだった。
「……やはり、昔の私と同じ答えですね」
その一言だけを残し、ロザリウスはゆっくりと錫杖を握り直した。
その瞳には、信仰ではなく、深い絶望だけが宿っていた。




