第336話
第336話
アーカディア各地。
侵入した強者たちは、それぞれの目的のために動き始めていた。
街の大通り、建物を薙ぎ倒しながら歩く一人の男がいた。
白銀の髪、片翼のような黒いマント。そして額には一本だけ伸びる角。
その男が歩くだけで、周囲の空気が張り詰める。
魔族の裏切り者、邪神教幹部ヴァルクレイン。
「人間というのは、いつ見ても脆いものだな」
剣を一振り。
衝撃波だけで建物の壁が崩れ落ちる。
逃げ惑う人々。
そこへ、一人の女性が静かに降り立った。
「その辺にしてもらえるかしら」
エイルだった。
ヴァルクレインが口元を歪める。
「守護者か、久しいな」
エイルは剣を抜く。
「あなたの相手は私よ」
「そうか。なら、退屈はしなさそうだ」
二人の魔力がぶつかり合う。
次の瞬間、凄まじい衝撃が街を駆け抜けた。
◇ ◇ ◇
一方、学園近く。
静かな石畳の上に、一人の老人が立っていた。
黒い外套、背には大剣。
その姿を見たヒューギルは静かに目を閉じる。
「……来たか」
老人は苦笑する。
「久しいな」
かつてのルミナス騎士団最強。
そして元総長バルドリック。
「お前ほどの男が、なぜ……」
ヒューギルの問いに、バルドリックは静かに視線を落とした。
「色々あるのだ……」
その一言だけだった。
多くは語らない。
だが、その声には僅かな苦悩が滲んでいた。
ヒューギルもそれ以上は聞かなかった。
「そうか。ならば、お前を止めるしかあるまい」
バルドリックも大剣を抜く。
「私も、お前をここから動かすわけにはいかぬ」
二人は同時に地を蹴った。
守護者の長と、かつての最強。
誰も割って入れない戦いが幕を開ける。
◇ ◇ ◇
街の中心部では、別の脅威が暴れ回っていた。
「ハハハハハ!もっと来い!もっと楽しませろ!」
好戦の四天王、ドラクス。
燃え盛る炎を纏い、その拳を振るうたびに建物が吹き飛ぶ。
その前へ飛び出したのは学生たちだった。
「止めるぞ!」
先頭に立つのはリオルド。
その左右には四年生のロイド・ガルディア。
三年生のディルク・ヴァレンツ。
さらに数名のSクラス生徒が並ぶ。
ロイドが巨大な盾を構える。
「俺が受ける!」
ディルクが拳を鳴らす。
「その隙に叩く!」
リオルドは拳を構え、低く身を沈めた。
「行くぞ!」
学生たちが一斉に駆け出す。
ドラクスはその姿を見て、獰猛な笑みを浮かべた。
「いいなぁ……!強ぇ奴らは!」
炎がさらに激しく燃え上がる。
戦いの火蓋が切って落とされた。
◇ ◇ ◇
その頃、街外れではレオンたち勇者パーティが邪神教徒を撃退しながら進んでいた。
すると一人の男がゆっくりと歩み出る。
純白だったはずの法衣は黒く染まり、手には禍々しい錫杖。
その瞳には慈愛ではなく狂気だけが宿っていた。
「ようやく会えましたな」
男はフィアナを見つめる。
「聖女様」
フィアナの表情が強張る。
「あなたは……」
男は静かに微笑んだ。
「かつて神に仕えし者。今は邪神様へ全てを捧げる者」
錫杖をゆっくりと掲げる。
「ロザリウスにございます」




