第334話
第334話
闘技場は騒然としていた。
各地から立ち上る黒煙、絶え間なく響く爆発音。そして風に乗って届く悲鳴。
「何が起きている!」
「街が……!」
「魔物か!?」
観客たちが立ち上がり、外の様子を窺おうとする。
貴族たちは護衛を呼び集め、一般客たちは不安そうな表情で周囲を見渡していた。
その時だった。
「静まれ」
重く、それでいてよく通る声が闘技場全体へ響く。
守護者の長、ヒューギル。
魔力によって拡張されたその声は、一瞬で会場のざわめきを静めた。
全員の視線がヒューギルへ集まる。
その表情は険しい。
「現在、アーカディアは襲撃を受けている」
その一言に会場がどよめく。
「敵は魔族が率いる魔物の軍勢。そして、邪神教だ」
息を呑む音が各所から聞こえた。
邪神教。
その名は近年になって各地で暗躍し始めた謎の組織。
その存在を知る者は多くはないが、それでも危険な集団であることは広く知られていた。
ヒューギルは続ける。
「感じられる魔力から判断するに、邪神教は幹部クラスが複数。さらに魔族側も、四天王が侵入しているものと思われる」
その瞬間、会場全体が凍り付いた。
「四天王……!」
「まさか本当に……!」
誰もがその名を知っている。
魔王軍最強の四人。
一人だけでも国家を揺るがす存在。
それが、このアーカディアへ侵入している。
ヒューギルは静かに会場全体を見渡した。
「アーカディアの学生たちへ告げる。自らの実力に自信がある者は、直ちに迎撃へ向かってほしい」
静まり返る会場。
「ただし、無理はするな。敵はお前たちがこれまで戦ってきた相手とは次元が違う。生き延びることを最優先としろ」
さらにヒューギルは貴賓席へ視線を向けた。
「この闘技場には各国の王族、貴族、騎士団関係者など、多くの要人がいる。当然、この場を守る者も必要だ。迎撃へ向かう者、ここを守る者。各自、自ら判断せよ」
一瞬の静寂。
そして、真っ先に歩き出したのはアルトだった。
「俺は迎撃へ向かう」
続いてカイン。
「面白くなってきたじゃねぇか」
グランヴェルも剣を抜く。
「魔族か、望むところだ」
レオンも迷いなく歩き出した。
「勇者として、戦います」
ノエル、ガイウス、テオドール、シャロン、セシル、ゼルヴァイン、クラリス。
Sクラスに所属する学生たちが次々と立ち上がる。
さらに。
「俺も行きます!」
「私も!」
一部のAクラスの学生たちも迎撃へ名乗りを上げた。
それぞれが武器を手に取り、闘技場の出口へ向かう。
学園武闘大会は、その瞬間をもって中断された。
これより始まるのは競技ではない。
アーカディアを守るための、本物の戦いだった。




