第328話
第328話
武闘大会本戦初日が終わり、翌日は休養日となった。
試合の疲れを癒やす者、街へ出掛ける者、次の試合へ向けて身体を休める者。
それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
そんな中、レオンは学園の訓練場で剣を振るっていた。
相手を務めるのはルシアン。
何度も剣を交えながら、明日の試合を見据える。
剣を打ち合わせる音だけが静かに響いた。
しばらくして、二人は距離を取る。
「どうですか」
ルシアンが尋ねる。
「ゼルヴァイン先輩と戦うイメージはできていますか」
レオンは剣を握り直す。
「正直、まだ分からない。でも勝つつもりだ」
ルシアンは静かに頷く。
「その意気です。相手は三年生最強ですが、勝機がない相手ではありません。焦らず、自分の戦いをしてください」
その時だった。
「おーい!」
聞き覚えのある声が響く。
振り返ると、カインとアルトが歩いてくる。
「やっぱここにいたか」
カインは楽しそうに笑う。
「レオン、明日はゼルヴァインだな」
「はい!勝つつもりです」
その返答にカインは豪快に笑った。
「いい顔になったじゃねぇか!」
アルトも腕を組みながら口を開く。
「ゼルヴァインは強い。だが、お前も見違えるほど成長した。良い勝負になるだろう」
「ありがとうございます」
レオンが頭を下げた。
しばらく四人で試合の話をしていると、訓練場の入口から新たな人影が現れる。
「久しぶりだな」
落ち着いた声。
「アレス先輩!」
レオンたちが一斉に振り向く。
現れたのは、昨年の学園武闘大会優勝者。
現在はルミナス騎士団へ所属するアレス・グランツヴァルトだった。
「毎年恒例のスカウトだ」
アレスが笑う。
「第三隊の隊長と一緒に来ている。あの人はヒューギル様に挨拶に行っていてな。俺だけ先に顔を出しに来た」
第三隊、ルミナス騎士団の中でも防衛戦を専門とする部隊だった。
レオンたちは改めて挨拶を交わす。
アレスはルシアンへ目を向けた。
「黒嶺山脈へ行っていたそうだな」
「ええ、少し調査をしていました」
「相変わらず忙しいな」
短いやり取りを交わした後、アレスはレオンたちへ視線を戻す。
「明日の試合、期待している」
「ありがとうございます!」
レオンが元気よく返事をする。
アレスは訓練場を後にしようとした。
だが、数歩進んだところで足を止める。
「そうだ」
アレスは振り返った。
「最近、妙なことが続いている」
その場の空気が少しだけ引き締まる。
「学園周辺でも魔物の数が増えている。都市内部でも、怪しい動きをしている連中を何人か見かけた」
ルシアンの表情が僅かに変わる。
「怪しい連中、ですか」
「ああ、確証はない。だが、嫌な予感がする」
アレスは全員を見回した。
「武闘大会中は人の出入りも多い。何かあってからじゃ遅い。十分に気を付けろ」
「はい」
レオンたちが力強く頷く。
「じゃあな」
そう言い残し、アレスは訓練場を後にした。
その背中を見送りながら、レオンは小さく呟く。
「何も起きなければいいけど」
ルシアンは静かに空を見上げる。
(何も起きなければ、一番いいのですが)
どこか胸騒ぎにも似た感覚だけが、静かに残っていた。




