第326話
第326話
第七試合。
「三年生代表、クラリス・リュクレール!」
「二年生代表、レティシア・バルセリオン!」
魔法を得意とする二人の対決。
会場からも大きな歓声が上がる。
「始め!」
開始と同時、レティシアは杖を構えた。
「【古き理よ、悠久より受け継がれし叡智よ――】」
古代魔法の詠唱。前回よりも短い。
古代魔法への理解が深まったことで、以前より詠唱を短縮できるようになっていた。
だが、それでも長い。
その隙を埋めるように、レティシアは無詠唱で魔法を放つ。
火、水、風。次々と魔法がクラリスへ襲い掛かる。
「甘いわね」
クラリスは軽やかに駆ける。
身体を僅かに傾けるだけで魔法をかわし、時には最小限の魔法で相殺する。
無詠唱ゆえに威力は抑えられている。
それを理解しているからこその立ち回りだった。
そして、レティシアの詠唱が完成する。
「【――天空を巡る無数の星々よ。その輝きを我が敵へ降り注ぎなさい】」
「《アストラル・レイン》」
無数の光が空を埋め尽くした。
星の雨。
眩い光弾が一斉にクラリスへ降り注ぐ。
「……っ!」
クラリスは高速で駆ける。
一発、二発、三発。紙一重で避け続ける。
避けきれないものだけを魔法や剣で相殺する。
それでもなお、光の雨は止まらない。
やがて一発が肩を掠めた。続いて腕、さらに足。小さな傷が増えていく。
それでもクラリスは止まらない。
「もう少し……!」
その距離は着実に縮まっていた。
レティシアは表情を引き締める。
ならばもう一度。
「【古き理よ、眠れる星々の力よ――】」
二つ目の古代魔法。
その間も無詠唱の魔法で牽制を続ける。
しかしクラリスは止まらない。無詠唱魔法を避け、時には受け流し、一直線に距離を詰める。
詠唱が完成した。
「《アストラル・ランス》」
巨大な光の槍が放たれる。
轟音と共に競技場を駆け抜けた。
クラリスは咄嗟に身体を捻る。
完全には避けきれない。
光の槍が肩口を掠め、大きく吹き飛ばされた。
観客席がどよめく。
「決まったか!」
土煙が晴れる。
そこには、まだ立っているクラリスの姿があった。
肩から血を流しながらも、その瞳は鋭さを失っていない。
「これでも……届かないのね」
レティシアが息を切らす。肩で大きく呼吸をしていた。
魔力の消耗が激しい。
古代魔法を二度放った代償は大きかった。
足元がふらつく。
「しまっ……!」
その一瞬をクラリスが見逃すはずもなかった。
一気に踏み込み、距離を詰める。
レティシアも迎撃しようと魔法を放つ。
だが魔力が追いつかない。
魔法は僅かに逸れた。
クラリスの剣がレティシアの杖を弾き飛ばす。
続く左の拳がレティシアの腹部へ突き刺さった。
「きゃっ……!」
レティシアの身体が後方へ吹き飛ぶ。
そのまま尻もちをつき、立ち上がろうとする。
だが力が入らない。
「そこまで!」
審判の声が競技場へ響いた。
「勝者、クラリス・リュクレール!」
大きな拍手が送られる。
クラリスはレティシアへ歩み寄る。
「あなたの古代魔法、本当にすごかった。でも、まだ完成してないわね。もっと使いこなせるようになれば……私じゃ勝てなくなると思う」
レティシアは悔しそうに拳を握る。
「まだ……未熟だったわ」
そう呟く姿を見ながら、観客席のルシアンは静かに目を細めた。
(古代魔法の完成度は上がっています。ですが、まだ魔力消費が大きすぎますね。あれでは長期戦には耐えられません)
それでも、レティシアが確実に成長していることだけは、誰の目にも明らかだった。




