第320話
第320話
二年生武闘大会最終日。
朝から競技場は熱気に包まれていた。
まず行われたのは三位決定戦。
レティシア・バルセリオン対ノエル。
「始め!」
開始と同時にノエルが駆け出す。
シルフィの風を纏い、一瞬でレティシアとの距離を詰める。
ルナが闇を広げ、視界を遮る。
そこへ高速の斬撃。
しかし。
「甘いわね」
レティシアは慌てない。
放たれた風魔法を水魔法で逸らし、闇は光魔法で相殺する。
さらにノエルの進行方向へ、あらかじめ魔法陣を展開していた。
「っ!」
風によって軌道を変える。
しかし、その先にも魔法陣。
逃げ道を読むように魔法が配置されている。
「全部読まれてる……!」
シルフィが慌ただしく風を起こす。
ノエルは紙一重で躱し続ける。
だがレティシアの魔法は終わらない。
火、水、風、地、光。次々と属性を切り替えながら、ノエルの動きを封じていく。
「……!」
僅かな判断の遅れ。光弾がノエルの肩を掠め、体勢が崩れる。
「そこよ」
レティシアが杖を掲げると、無数の魔法陣が展開された。大量の魔法が一斉に降り注ぐ。
回避は不可能。
爆煙が競技場を覆った。
煙が晴れる。
そこには膝をつくノエルの姿があった。
「そこまで!」
審判が勝敗を告げる。
「勝者、レティシア・バルセリオン!」
拍手が起こる。
レティシアがノエルへ歩み寄る。
「ありがとうございました」
「……ありがとうございました」
ノエルは少し悔しそうに笑った。
「魔法使い相手に近付けなかった」
「シルフィとルナのおかげで、本当に危なかったわ」
「慰め?」
「いいえ」
レティシアは首を横に振る。
「本心よ。また戦いましょう」
「……うん」
二人は握手を交わした。
これにより、二年生武闘大会第三位。
レティシア・バルセリオン。
そしていよいよ最後の一戦。
「決勝戦!」
「グランヴェル・レグナス!」
「レオン!」
競技場が大歓声に包まれる。
昨年と同じ組み合わせ。
しかし昨年とは違う二人が、そこに立っていた。
グランヴェルがゆっくりと剣を抜く。
「レオン」
「ああ」
「貴様が強くなっていることは分かっている」
黄金の瞳がレオンを見据える。
「だが、俺もまた昨年とは違う」
火の中位精霊が姿を現す。
「グランヴェル」
「行くぞ」
「ああ」
精霊が嬉しそうに頷いた。
レオンも剣を抜く。
ルーチェが隣へ飛ぶ。
「レオン!」
「うん」
レオンは笑う。
「望むところだ。去年よりずっと成長したところを見せてやる」
グランヴェルが笑みを浮かべた。
「期待している。楽しませてくれ」
二人が構える。
「始め!」
開始と同時、レオンが地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
剣を振るう。
グランヴェルが迎え撃つ。
甲高い金属音が競技場に響いた。
一撃、二撃、三撃。
激しい剣戟が続く。
観客の視線が追いつかないほどの速度。
「速い……!」
ガイウスが思わず呟く。
「去年とは別人だ」
テオドールも頷いた。
「レオンもグランヴェルも、どちらも明らかに強くなっている」
グランヴェルの剣は重く、鋭い。純粋な剣技では、なおグランヴェルが一枚上手だった。
だが、レオンは食らいつく。
星の神アストレイアの加護の僅かな未来視。
剣筋を読み、身体を滑らせるように躱し、反撃する。
「いいぞ!」
グランヴェルが笑う。
「それでこそ勇者だ!」
一方、精霊同士も激しく競り合っていた。
火の中位精霊が黄金の炎を放つ。
「イクゾ!」
ルーチェも光を放つ。
「マケナイ!」
炎と光が空中でぶつかり合う。
爆発。
互いの魔法が相殺される。
「ルーチェ!」
「ウン!」
ルーチェの援護を受けながらレオンが斬り込む。
グランヴェルは剣一本で受け止める。
「まだだ!」
黄金の炎が剣を包み込む。レオンも光を纏わせる。
二人の剣が再び激突した。
衝撃が競技場全体へ広がる。
何十合と打ち合った後、二人は同時に後方へ跳んだ。
距離を置く。
息は乱れている。
しかし二人とも笑っていた。
「見違えたな、レオン」
グランヴェルが言う。
「昨年の貴様なら、ここまで俺と渡り合うことはできなかった」
「ありがとう」
レオンも剣を構え直す。
「でも俺から見れば、グランヴェルの方がもっと強くなってる。やっぱり簡単には勝たせてくれないな」
「当然だ」
グランヴェルの魔力が高まる。
火の中位精霊も笑みを浮かべた。
「ならここからが本番だ」
レオンも深く息を吸う。
ルーチェが隣で光を強める。
「行こう、ルーチェ」
「ウン!」
競技場を包む魔力が、一段と膨れ上がった。
決勝戦は、ここから真の幕を開ける。




