第319話
第319話
準決勝第一試合。
グランヴェルとレティシアの戦いは、グランヴェルの勝利で幕を閉じた。
古代魔法すら正面から突破し。
グランヴェルは、昨年に続いて決勝進出を決めた。
そして。
「準決勝第二試合!」
「レオン対ノエル!」
二人が競技場へと姿を現す。
「まさかノエルと戦うことになるとはな」
レオンが剣を抜く。
「嫌なの?」
「いや」
レオンは首を振った。
「楽しみだよ」
「そう」
ノエルも二本の短剣を抜く。
その周囲では、シルフィが元気よく飛び回っている。
一方、ルナはいつものようにノエルの肩に座り、静かにレオンを見つめていた。
レオンの隣にはルーチェ。
三体の精霊。
風、闇、そして光。
互いに相手を見つめている。
「ルーチェ」
「ウン!」
「行くぞ」
「ウン!」
ノエルも二人を見る。
「シルフィ、ルナ」
二体の精霊が反応する。
「勝つよ」
シルフィが元気よく飛び上がった。
ルナも静かに頷く。
「始め!」
開始の合図と共にノエルの姿が消えた。
「っ!」
レオンが剣を構える。
右。
金属音。
短剣を受ける。
だが、ノエルはすでにいない。
「後ろ!」
フィアナが思わず声を上げる。
レオンが振り向く。
短剣が迫っていた。
「くっ!」
剣で受ける。
しかし、再びノエルの姿が消えた。
左、上、背後、正面。縦横無尽。
風を纏ったノエルが、競技場を駆け回る。
いや、ただ速いだけではない。
シルフィの風によって、本来ならば不可能な角度で急停止し、加速し、方向を変える。
「速いな……!」
レオンが剣を振るう。
だが、すでにノエルはいない。
頬に浅い傷が走った。
続けて、腕、肩。次々と浅い傷が増えていく。
「レオンが押されてるぞ」
ガイウスが声を上げる。
テオドールは黙って競技場を見ていた。
「いや」
少ししてそう呟く。
「少しずつ変わっている」
「何がだ?」
「レオンの反応だ」
競技場。
ノエルが背後から迫り、レオンが振り向く。
短剣を受けた。
先ほどよりも明らかに反応が早い。
「っ」
ノエルも気づいた。
距離を取る。
そして再び加速する。
右、受けられる。
左、躱される。
背後、振り向きざまに剣が迫る。
ノエルは身体を反らして回避した。
「……慣れてきてる」
ノエルが呟く。
「ああ」
レオンは剣を構える。
「速いけど」
一か月。
ルシアンとの特訓。
そして何度も戦った相手、カイン・ブラッドレイ。
土魔法によって足場を作り。
あらゆる方向から襲いかかる高速機動。
その速度は、ノエルよりも速かった。
「もっと速い人と、何度も戦ったからな」
「……カイン先輩?」
「ああ」
「それはずるい」
「俺もそう思う」
レオンが苦笑する。
「何回吹き飛ばされたか分からないからな」
だがその経験が今、確実に生きている。
ノエルが動き、レオンが追う。
完全に捉えているわけではない。
それでも、先ほどまでのように、一方的に攻撃を受けることはなくなった。
剣と短剣が激突する。
一度、二度、三度。
「なら」
ノエルが呟く。
「これならどう?」
ルナが動いた。
闇が広がり、競技場の一部が黒い霧に覆われた。
「視界を!」
レオンが周囲を見る。
その瞬間、風が吹いた。
「っ!」
右。
レオンが剣を構える。
しかし誰もいない。
「違う!」
背後からノエルが現れる。
短剣が振るわれた。
レオンは咄嗟に身体を捻る。
完全には避けられない。
腕が切り裂かれた。
「ぐっ!」
距離を取る。
だが、再び闇。そこへ風。
シルフィがノエルの速度と軌道を操り。ルナが気配と姿を隠す。
単純な速度ではない三人の連携。
「これは……厄介だな」
レオンが呟く。
「今更?」
闇の中からノエルの声。
「いや」
レオンは笑った。
「でも」
剣を構える。
「俺も一人じゃない」
「ルーチェ!」
「ウン!」
光が広がった。
ルーチェの身体から放たれた光が、周囲の闇を照らす。
ルナが不満そうにルーチェを見る。
ルーチェは胸を張った。
その直後、シルフィが風を起こす。
再びノエルが加速した。
「来る!」
レオンが剣を構える。
右、違う。
風を利用した急旋回、左。
「そこだ!」
レオンが剣を振るう。
金属音。
ノエルの短剣と激突した。
「っ!」
ノエルの目が僅かに見開かれる。
レオンが押し返す。
ノエルは風を使い、後方へ離脱した。
だが。
「ルーチェ!」
「ウン!」
光弾が放たれる。
ノエルは空中で軌道を変えて回避した。
そこへレオンが踏み込む。
「はあっ!」
剣を振るう。
ノエルが短剣で受ける。
「くっ……!」
力ではレオンが上。
ノエルが押し返される。
だが、シルフィの風が吹く。
その勢いを利用し、ノエルは再び距離を取った。
「しぶといな」
「そっちこそ」
二人が再び構える。
そして、同時に動いた。
ノエルが加速する。
レオンが迎え撃つ。
風、闇、光、三属性の力が競技場を飛び交う。
短剣と剣が何度も激突する。
しかし戦いが長引くほど、徐々にレオンがノエルを捉え始めていた。
右、受ける。左、躱す。背後、振り向きざまに反撃。
「っ!」
ノエルが後退しようとするが、レオンは逃がさない。
ルーチェが光弾を放ち、回避方向を限定する。
その先へレオンが踏み込んだ。
「はあああっ!」
剣が振るわれる。
ノエルは二本の短剣を交差させて受け止めた。
だが衝撃を殺し切れない。
短剣が一本。
宙を舞った。
「っ!」
ノエルが残った短剣を振るう。
レオンが剣で弾く。
そして剣先がノエルの首元で止まった。
「そこまで!」
審判の声が響く。
「勝者、レオン!」
大きな歓声が上がった。
レオンは剣を下ろす。
「ありがとうございました」
「……ありがとうございました」
ノエルも短剣を下ろした。
シルフィが悔しそうにノエルの周囲を飛び回る。
ルナもいつもより少しだけ落ち込んでいるように見えた。
「惜しかったな」
レオンが言う。
「慰め?」
「違うって」
「じゃあ何?」
「本当にそう思っただけだよ」
「……そう」
ノエルは少しだけ黙る。
「次は勝つから」
「ああ」
レオンが笑う。
「俺も負けない」
その隣でルーチェが得意そうに胸を張っていた。
シルフィがそんなルーチェへ勢いよく近づく。
何かを訴えるように、両手を大きく動かす。
「……喧嘩してる?」
レオンが首を傾げる。
「多分、次は負けないって言ってる」
「ノエル、分かるのか?」
「なんとなく」
ルナもルーチェを静かに見つめている。
ルーチェは少し考え。
「ツギモ、カツ!」
そう言って胸を張った。
「喋った!」
ガイウスの声が観客席から響く。
「いや、中位精霊なんだから喋れるだろ」
テオドールの呆れた声が続いた。
レオンとノエルは顔を見合わせる。
そして二人とも小さく笑った。
準決勝第二試合。
勝者、レオン。
これで二年生武闘大会の決勝戦は、昨年と同じ組み合わせとなった。
グランヴェル・レグナス対勇者レオン。
一年前、レオンはグランヴェルに敗れた。
だが今年のレオンは、もうあの頃とは違う。




