第318話
第318話
準々決勝の全試合が終了した。
学園全体の武闘大会へ出場する、二年生の代表四名。
グランヴェル、レティシア、ノエル、そして、レオン。
四人の代表が決定した。
しかし、二年生の武闘大会はまだ終わっていない。
短い休憩時間を挟み、競技場には再び多くの観客が集まっていた。
「準決勝第一試合!」
「グランヴェル・レグナス対レティシア・バルセリオン!」
大きな歓声が上がる。
二人が競技場へと姿を現した。
「よろしく、グランヴェル様」
「ああ」
グランヴェルは剣を抜く。
「先ほどの試合を見た。以前よりも腕を上げたようだな」
「あら」
レティシアが僅かに微笑む。
「まだ戦ってもいないのに分かるの?」
「見れば分かる」
「そう」
レティシアも杖を構える。
「でも、成長したのは私だけではないようね」
「当然だ」
グランヴェルが剣を構える。
「俺は誰よりも強くなる男だからな」
「ふふ。では、その力を見せてもらいましょうか」
二人の視線が交差する。
「始め!」
開始の合図。
直後、レティシアの周囲に複数の魔法陣が展開された。
火、水、風、地、光。
異なる属性の魔法が、ほぼ同時に放たれる。
「ふん!」
グランヴェルが剣を振るい、正面から迫る炎弾を切り裂く。直後、足元の地面が隆起した。
「っ!」
僅かに体勢が揺れる。
そこへ左右から水の槍、上空から光弾、背後から風の刃。四方向から同時に攻撃が迫った。
グランヴェルが剣を振るう。
一つ、二つ、三つ。魔法を切り落とす。
しかし、最後の風刃がグランヴェルの頬を僅かに掠めた。
「おおっ!」
観客席から歓声が上がる。
「当たった」
ノエルが呟く。
ガイウスも驚いたように競技場を見ていた。
「さっきテオドールの魔法は全部切られてたよな?」
「ああ」
テオドールが答える。
その目は真剣に競技場を見つめていた。
「俺は異なる属性を高速で切り替えながら、一つの攻撃を次へ繋げている。だが、レティシアは違う。複数の魔法を完全に同時制御している」
競技場では、レティシアの攻撃が続いていた。
火、水、風、地、光。異なる属性、異なる軌道、異なる速度。
それら全てがグランヴェルを追い詰めるために組み合わされている。
先ほどのディオン戦よりも、明らかに魔法の密度が高い。
「なるほど」
グランヴェルが水流を切り裂き、直後に迫った光弾を身体を傾けて躱す。
「確かに先ほどの男とは違うな」
「光栄ね」
レティシアが杖を振るう。
地面が隆起する。
グランヴェルが跳ぶ。
その先には、すでに無数の風刃が待ち構えていた。
「でも」
レティシアの周囲に、さらに魔法陣が増える。
「まだ終わりじゃないわよ」
炎弾が一斉に放たれる。
空中に逃げ場はない。
「面白い」
グランヴェルが笑った。
その瞬間、炎が燃え上がる。
赤ではない、黄金。
グランヴェルの身体を、黄金の炎が包み込んだ。
「来た」
レオンが身を乗り出す。
火の中位精霊の力。
グランヴェルの剣を黄金の炎が包み込む。
「はあっ!」
一閃。
迫っていた全ての魔法が消し飛んだ。
グランヴェルが着地し、地面が砕ける。
そして、一直線にレティシアへ向かって駆け出した。
レティシアの周囲に、無数の魔法陣が展開される。
火、水、風、地、光が一斉に放たれる。
だがグランヴェルは止まらない。
炎を切り裂き、水を蒸発させる。風を消し飛ばし、岩を砕き、光を弾く。
全てを正面から突破していく。
「……やっぱり、これだけでは止まらないか」
レティシアが小さく呟く。
そして、静かに息を吸った。
「【古き理よ、大地に刻まれし星の楔よ――】」
「え?」
レオンが反応する。
テオドールも僅かに目を見開いた。
「古代魔法か」
「でも」
フィアナが首を傾げる。
「以前より、魔法の完成が……」
「ああ。速いな」
テオドールが答えた。
以前。
レティシアが古代魔法を使用した時、その詠唱はさらに長いものだった。
古代魔法は、現代魔法とは根本的に術式が異なる。
膨大な魔力、複雑な術式。
そして、それを正確に形作るための長い詠唱。絶大な威力を誇る代わりに、発動までに時間がかかる。
それが古代魔法の最大の弱点だった。
だがこの一年、レティシアは古代魔法について学び続けてきた。
ただ残された詠唱をなぞるのではない。
一つ一つの言葉が術式のどの部分を担っているのか。
どこまでが不可欠で、どこまでならば、別の魔力操作によって補うことができるのか。
その理解を深めたことで。
レティシアは、古代魔法の威力を大きく損なうことなく、詠唱の一部を省略できるようになっていた。
「【悠久の戒めを越え、今ここにその鎖を示しなさい――】」
レティシアの周囲に巨大な術式が広がる。
「《セレスティアル・カテーナ》」
光が弾けた。
次の瞬間、競技場の地面から、無数の鎖が飛び出した。
「何だと!」
グランヴェルが剣を振るう。
一本を切り裂く。
しかし次の鎖が腕へ巻きついた。
「くっ!」
さらに、脚、腰、剣を持つ腕。次々と鎖がグランヴェルを拘束していく。
「止まった!」
ガイウスが声を上げる。
だがテオドールは何も言わなかった。
黄金の炎。
それが、さらに激しく燃え上がっていた。
「この程度で」
グランヴェルが剣を強く握る。
黄金の炎が鎖を包む。
「俺を止められると思うな!」
炎が爆発的に広がった。
一本、また一本。魔力の鎖が砕け散る。
レティシアの表情が僅かに変わった。
「まだよ」
拘束を続けながら。
その周囲に、再び複数の魔法陣が現れる。
「何だよ、あれ……」
ガイウスが呆然と呟いた。
「古代魔法を維持しながら、別の魔法を使ってるぞ」
「……普通は無理だろうな」
テオドールが答える。
古代魔法による拘束。
さらに火、水、風、地、光。複数属性による一斉攻撃。
その全てがグランヴェルへ殺到する。
轟音と爆炎。土煙が競技場を覆う。
「グランヴェル!」
レオンが競技場を見る。
次の瞬間、土煙の中から黄金の炎が噴き上がった。
「おおおおおっ!」
グランヴェルが飛び出す。
身体には傷が増えている。
服も所々が焼け、破れていた。
だが、その勢いは止まっていない。
「これでも止まらないか…」
「当然だ!」
グランヴェルが駆ける。
レティシアが魔法障壁を展開する。
一枚、黄金の剣が砕く。
二枚、突破する。
三枚、炎が飲み込む。
そして、グランヴェルがレティシアの目の前へ到達した。
剣が振るわれる。
その切っ先が、レティシアの首元で止まった。
「そこまで!」
審判の声が響く。
「勝者、グランヴェル・レグナス!」
大歓声が競技場を包んだ。
グランヴェルは黄金の炎を消し、剣を下ろした。
「……完敗ね」
レティシアが小さく息を吐く。
「いや」
グランヴェルは首を振る。
「以前より遥かに強くなっていた。俺も精霊の力を使わされたからな」
「あら」
レティシアが微笑む。
「それは褒め言葉として受け取っておくわ」
「ああ、そうしておけ」
二人は競技場を後にする。
準決勝第一試合。
勝者、グランヴェル・レグナス。
古代魔法への理解を深め、さらなる成長を遂げたレティシア。
しかし、その進化をも黄金の炎を纏うグランヴェルは、正面から突破した。
昨年に続き、グランヴェルが決勝進出を決めた。




