第31話
第31話
王都が見えたのは、出発から七日目の昼だった。
途中、いくつかの街を経由した。どこも完全に平穏というわけではなく、門の警備は強化され、兵の動きも増えていた。魔物の出現が増えているという話は、どの街でも共通していた。
だが、それでもあの光景には遠く及ばない。
高くそびえる王都の城壁を見上げながら、ルシアンは何も言わない。
「……変わらないな」
アルベルトが小さく呟く。
門を抜け、王都の中へ入る。人の声、商人の呼び込み、馬車の音。壊れていない日常がそこにはあった。
その時だった。
「アルベルト様」
整った声が一行の前で止まる。
視線を向けると、リュクレール公爵家の使用人たちが控えていた。中央の男が一歩前に出る。
「お待ちしておりました。公爵より、お二人をお迎えするよう命を受けております」
アルベルトはわずかに目を細める。
「……もう話は通っているか」
「はい」
簡潔な返答。
馬車が用意されているのが見える。
アルベルトは後ろを振り返る。
「お前たちは予定通り、王都のヴェルグレイヴ邸へ向かえ」
「はっ!」
騎士たちは即座に応じる。
「到着後、状況を整理しろ。こちらからも後で合流する」
「了解しました」
無駄のないやり取り。
それだけで役割は分かれる。
ルシアンはその様子を静かに見ていた。
(もう“家”として動いている)
領地は失われても、機能は失われていない。
アルベルトは前へ向き直る。
「案内を頼む」
「こちらへ」
二人は馬車へ乗り込む。
王都の街並みが流れていく。整えられた石畳、規則的に並ぶ建物、人の多さ。
壊れていない世界。
だが――
(遠い)
ルシアンは何も言わない。
やがて馬車は中心部へ入り、大きな門の前で止まる。開かれた先には静かな庭園と巨大な屋敷。
「リュクレール公爵邸にございます」
扉が開き、外へ出る。
外の喧騒とは別の、張り詰めた空気。
「こちらへ」
案内され、応接室へ通される。
「少々お待ちください」
扉が閉まる。
短い静寂。
「……ここからが本番だな」
「はい」
ルシアンは短く答える。
その時、扉が開いた。
金髪の少女が入ってくる。
迷いなくルシアンを見る。
「……ルシアン?」
「……クラリス」
クラリスは一歩近づき、足を止める。
「無事だったのね」
「はい」
それだけで十分だった。
クラリスは小さく息を吐く。
「……よかった」
続いて入ってくる男。
静かな威圧感を纏う存在。
「よく来たな、アルベルト、ルシアン」
リュクレール公爵だった。




