第30話
第30話
出発から二日目の昼過ぎ、一行は森を抜けかけていた。街道は開けつつあるが、まだ木々が多く視界は完全ではない。騎士たちは周囲を警戒しながら進んでいる。
アルベルトは先頭寄りで馬を進め、視線を絶えず巡らせていた。わずかな異変も見逃さない動きだ。ルシアンも後方で同じように気配を探っている。
その時。
(……来る)
空気の流れが、わずかに乱れる。
「止まれ!」
アルベルトの声が飛ぶ。一行が即座に停止する。
直後、茂みが揺れた。
ゴブリン。数体ではない、群れ。さらに奥からウルフ、そして重い足音。
「数が多い!」
騎士が叫ぶ。
「前を抑える! 隊列を崩すな!」
「はっ!」
指示と同時に動きが揃う。
(……早い)
ルシアンはそれを横目で捉える。判断、指示、連動。以前より明らかに洗練されている。
ゴブリンが飛びかかる。ルシアンは踏み込む。
一閃。首が飛ぶ。
二体目。斬る。
三体目。剣で受け、弾き、そのまま切り返す。
無駄がない。
だが――
(見られている)
周囲に騎士がいる。
あの力は使えない。使うべきではない。
剣と魔法だけで十分だ。
ウルフが横から迫る。風を足元に流す。踏み込み、斬る。もう一体。牙が迫る。体を捻り、紙一重で回避。そのまま首元へ刃を滑り込ませる。血が地面に散る。
(これでいい)
イクリプスに意識が向きかける。
だが、止める。
あれは見せるものではない。
使うなら、誰にも気づかれない状況のみ。
今は必要ない。
一方、アルベルトはオークと正面から対峙する。棍棒が振り下ろされる。重い一撃だが、最小限で躱す。踏み込む。懐へ。一撃、深く刺す。まだ倒れない。即座に引き抜き、二撃目。急所を正確に捉える。倒す。
無駄がない。力任せではない。仕留める動き。
(……変わった)
ルシアンは理解する。以前より明確に強い。技術も判断も、そして――
(迷いがない)
背負っているものが違う。
次のオークが迫る。アルベルトは下がらない。前へ。受け、流し、斬る。騎士たちもそれに合わせて動く。指揮と実戦が噛み合っている。
戦闘は長くは続かなかった。最後の一体が倒れ、周囲に静寂が戻る。
「……周囲の警戒を続けろ」
「被害は軽微です」
「よし」
短く頷き、アルベルトはルシアンへ視線を向ける。一瞬だけ間がある。先ほどの動きを見ていた。
だが何も聞かない。
「……強くなったな」
それだけだった。
ルシアンはわずかに視線を逸らす。
「兄さまも」
短く返す。
それで十分だった。
互いに理解している。以前とは違うこと。そして、それぞれが背負っているものも。
アルベルトは剣を収める。
「進むぞ」
「はい」
一行は再び動き出す。王都へ向けて。それぞれの役割を背負いながら。
森を抜ける風は、少しだけ冷たくなっていた。




