第315話
第315話
準々決勝第一試合。
グランヴェルとテオドールの戦いは、グランヴェルの勝利で幕を閉じた。
そして。
「準々決勝第二試合!」
「レティシア・バルセリオン対ディオン・アルクス!」
二人が競技場へと姿を現す。
歓声を受けながらも、レティシアはいつもと変わらない穏やかな表情を浮かべていた。
その向かい側、ディオンは静かに武器を構える。
Aクラス一位。
一回戦から順調に勝ち進み、三回戦ではSクラスのリオルドを破ってベスト8へ進出した実力者。
その実力は間違いなく本物だった。
だが。
「これは……厳しいだろうな」
観客席でガイウスが呟く。
レオンも競技場を見つめながら頷いた。
「ああ」
ディオンは強い。
リオルドとの戦いを見れば、それは分かる。
だが、今回の相手はレティシアだ。
現在のSクラス。
その中でも、グランヴェル、レオン、そしてレティシア。
この三人は、他の生徒たちよりも頭一つ抜けた場所にいる。
「始め!」
試合開始の合図。
先に動いたのはディオンだった。
地面を強く蹴り、一気にレティシアとの距離を詰める。
速い。
リオルドとの戦いでも見せた鋭い踏み込み。
そのまま武器を振るう。
だが、レティシアは半歩だけ後ろへ下がった。
攻撃が目の前を通過する。
「っ!」
ディオンはすぐに次の攻撃へ移る。
横薙ぎ、返す動きから斬り上げ、さらに踏み込む。
しかし、一度も届かない。
レティシアは大きく動いているわけではなかった。
半歩、一歩。時には身体を僅かに傾けるだけ。
それだけで、ディオンの攻撃を全て躱していく。
「くっ!」
ディオンがさらに踏み込もうとした。
その瞬間、レティシアの周囲に魔法陣が浮かび上がった。
三つ。いや、五つ。
「なっ……!」
ディオンが咄嗟に横へ跳ぶ。
次の瞬間、火、水、風。異なる属性の魔法が、ほぼ同時に放たれた。
炎弾を避ける。
直後、移動先へ水の槍が迫る。
「っ!」
武器で弾く。
しかし、その瞬間には風の刃が背後から迫っていた。
「ぐっ!」
辛うじて身体を捻って回避する。
だが、完全には避けられない。
服の一部が切り裂かれた。
「まだよ」
レティシアの静かな声。
再び、複数の魔法陣が展開される。
「……すごい」
フィアナが呟く。
先ほどのテオドールも、四つの属性を使い分けながら戦っていた。
だが、レティシアは違う。
属性を切り替えているのではない。
異なる属性の魔法を、同時に制御している。
炎が正面から、水が左右から、風が上空から、そして地面から岩の槍。
それぞれが異なる軌道、異なる速度、異なるタイミングでディオンへ襲いかかる。
「こんなの、どうすりゃいいんだよ……」
ガイウスが呆れたように呟いた。
「テオドールさんとはまた違いますね」
フィアナが言う。
「テオドールさんは一つ一つの魔法を繋げています。ですがレティシアさんは……」
「全部同時」
ノエルが答えた。
「しかも、一つも制御が乱れてない」
競技場では、ディオンが必死に攻撃を躱し続けていた。
だが反撃できない。
一歩前へ出ようとすれば炎が道を塞ぐ、横へ逃げれば風の刃、後ろへ下がれば岩壁が退路を遮断する。
「くそっ!」
ディオンが強引に前へ出る。
魔法を武器で弾き、一発を身体で受けながら。
それでもレティシアへ向かって走る。
「おおおおっ!」
渾身の一撃。
しかし、レティシアの姿が消えた。
「なっ――」
風魔法。
風を纏い、一瞬でディオンの側面へ移動していた。
「残念」
レティシアが杖を向ける。
その瞬間、ディオンの周囲に魔法陣が浮かび上がった。
一つ、二つ、三つ、次々と増えていく。
「……嘘だろ」
十を超える魔法陣。
火、水、風、地、光。異なる属性の魔力が、ディオンを包囲する。
レティシアが静かに杖を下ろした。
同時に全ての魔法が放たれた。
「ぐあああああっ!」
轟音。
競技場を衝撃が揺らし、土煙が舞い上がった。
しばらくして煙が晴れる。
そこには、倒れたディオンの姿があった。
「そこまで!」
審判が声を上げる。
「勝者、レティシア・バルセリオン!」
大きな歓声が響く。
レティシアは静かに杖を下ろした。
その表情には、ほとんど疲労の色がない。
「強いな」
レオンが呟く。
「ああ」
ガイウスも頷く。
「ディオンだって強いはずなんだけどな」
「相手が悪かったね」
ノエルが淡々と言った。
ディオンは弱くない。
Sクラスのリオルドを倒したことが、その証明だった。
しかし、レティシアは、そのさらに上にいた。
圧倒的な魔力量、複数属性への適性、異なる魔法を同時に制御する技術。
そして、戦場全体を支配するほどの魔法の数。
古代魔法を使う必要すらない。
通常の魔法だけで、レティシアはディオンを圧倒した。
「ありがとうございました」
レティシアは倒れたディオンへ一礼する。
準々決勝第二試合。
勝者、レティシア・バルセリオン。
二人目の代表者が決定した。




