第314話
第314話
二年生武闘大会、二日目。
今日は準々決勝と準決勝が行われる。
そして準々決勝を勝ち抜いた四名は、二年生の代表として学園全体の武闘大会への出場権を得る。
つまり、ここを勝てば代表決定。
最初の試合を戦う二人が競技場へと姿を現した。
「準々決勝第一試合!」
「グランヴェル・レグナス対テオドール・ウォーデン!」
歓声の中、二人は向かい合う。
グランヴェルは剣を抜き、悠然と構える。
一方のテオドールも杖を構えた。
「相手が俺だからといって、最初から諦めるつもりではないだろうな」
グランヴェルの言葉に、テオドールは眼鏡の位置を直す。
「当然だ。お前が強いことは知っている。だが、戦う前から負けを認めるつもりはない」
「そうか」
グランヴェルが僅かに笑う。
「ならば来い」
二人が構えた。
「始め!」
開始の合図。
先に動いたのはテオドールだった。無数の雷撃がグランヴェルへ殺到する。
グランヴェルは一歩も動かない。
剣を振るう。
迫っていた雷撃が次々と切り裂かれ、霧散した。
だが、テオドールの攻撃は止まらない。
雷撃の直後、左右から風の刃が迫る。
同時に地面が隆起し、グランヴェルの足元を崩す。
さらに正面から大量の水が押し寄せた。
雷、風、地、水。テオドールが持つ四つの属性。
その全てを無詠唱で次々と切り替えていく。
一つ一つの魔法を独立させるのではない。
雷を避ければ風が待つ、風を防げば足場が崩れる、動きを止めれば水流が襲う。
絶え間なく魔法を繋ぎ、相手の選択肢を削っていく。
「すごいな」
観客席から戦いを見ていたレオンが呟く。
「ほとんど間がない」
フィアナも頷く。
「四つの属性を使いながら、全ての魔法を次の攻撃へ繋げていますね」
「一つ防いでも終わりじゃない」
ノエルが競技場を見つめる。
「防いだ先に、もう次の魔法がある」
ガイウスが感心したように声を上げる。
「俺だったらどうすりゃいいんだ、あれ」
「耐えるしかないんじゃない?」
「ノエル、それ解決になってないぞ」
だが、競技場に立つグランヴェルに、焦りはなかった。
一閃。
雷撃を切り裂く。返す剣で風の刃を消し飛ばす。足元から突き出した岩槍を踏み砕き、迫る水流を剣圧で両断する。
「っ……!」
テオドールの表情が僅かに歪んだ。
止まらない。
さらに魔法を放つ。
雷撃、風刃、岩槍、水弾。四属性の魔法が、絶え間なくグランヴェルへ殺到する。
それでもグランヴェルは動かない。剣を振るうたびに、魔法が消える。
まるで、自分の周囲に絶対に破ることのできない壁が存在するかのように。
「児戯だな」
グランヴェルが静かに言った。
「これでは俺には届かん」
「……言ってくれる」
テオドールが杖を強く握る。
分かっていた。
グランヴェルが強いことなど。
この一年、何度もその戦いを見てきた。
合同遠征でも、日々の訓練でも、その強さは嫌というほど理解している。
それでも。
「まだ終わっていない!」
テオドールの魔力が高まる。
今度は無詠唱ではない。
「《ライトニング・レイ》!」
凝縮された雷撃が放たれる。
先ほどまでの魔法とは明らかに威力が違う。
眩い雷光が一直線にグランヴェルへ迫った。
「ふん」
グランヴェルは剣を構える。
そして、一閃。
雷光が真っ二つに切り裂かれた。
「なっ……!」
その瞬間、グランヴェルの姿が消える。
「っ!」
テオドールは咄嗟に地面から岩壁を作り出した。
だが、グランヴェルの剣が振り抜かれる。
岩壁が砕け散る。
その向こうから現れたグランヴェルへ、テオドールは杖を向けた。
魔力を集中させる。
しかし遅い。
グランヴェルの剣先が、テオドールの首元で止まっていた。
「そこまで!」
審判の声が響く。
「勝者、グランヴェル・レグナス!」
歓声が競技場を包んだ。
グランヴェルは剣を下ろす。
この戦いで火の精霊の力は使っていない。黄金の炎も使う必要すらなかった。
「悪くはなかった」
グランヴェルが言う。
「魔法の組み立ても以前より遥かに良くなっているな」
「……そうか」
「だが」
グランヴェルはテオドールを見る。
「今のままでは俺には届かん」
そう言い残し、競技場を後にした。
テオドールはその場に立ったまま、自分の杖を見つめる。
自分も強くなった。
魔法の発動速度、属性の切り替え、複数の魔法を組み合わせる技術。
どれも一年前とは比べものにならない。
それでも、一度も届かなかった。
「……まだ」
杖を握る手に力が入る。
「まだ届かないか」
悔しかった。
だが、それ以上に自分に足りないものが、はっきりと見えた。
テオドールは顔を上げる。
遠ざかっていくグランヴェルの背中を見つめる。
「……次は」
小さく呟いた。
「もう少し、食らいついてやる」
準々決勝第一試合。
勝者、グランヴェル・レグナス。
二年生最初の代表者が決定した。




