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果てなき世界  作者: 影川明空人
第6章 学園2年目
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第309話

第309話


 翌日。


「おい、ルシアン!」


「……」


 遠くから聞こえた声に、ルシアンは足を止めた。


 声の主は考えるまでもない。


「今日こそ続きやろうぜ!」


 カインだった。


 その隣にはグランヴェルもいる。


「ルシアン、昨日の続きを――」


 しかし、その時には既にルシアンの姿はなかった。


「……あ?」


 カインが周囲を見回す。


「どこ行った?」


「逃げたな」


 グランヴェルが淡々と答える。


「逃げた?」


 カインの口元が吊り上がる。


「面白ぇ。探すぞ、グランヴェル!」


「なぜ俺が付き合わなければならん」


 そんなやり取りがあった翌日の野営でも。


「ルシアンを知らねぇか?」


「先ほどまでこちらにいたはずだが……」


 カインとグランヴェルが探し始めた頃には、既に姿を消していた。


 さらに、その次の日も。


「またいねぇ!」


「完全に避けられているな」


「何でだよ!」


「貴様がしつこいからだろう」


 ルシアンは二人が近付いてくる気配を察知するたび、別の場所へ移動していた。


 時には野営地の反対側へ、時には教員たちの近くへ、そして時には、完全に気配を消して隠れる。


 そうして何とか模擬戦を避け続けながら。


 一行はようやくアーカディアへ帰還した。


◇ ◇ ◇


 アーカディア。


 遠征学習へ参加した二年生たちが集められていた。


 前に立つのはレオニード。


「まずは全員、無事に帰還できたことを喜ばしく思う」


 生徒たちを見渡す。


「今回は黒嶺山脈の異常。そして魔族の出現によって、予定より早く遠征学習を終了することになった。最後まで課題を達成できなかったことを残念に思う者もいるだろう」

「だが」


 レオニードは静かに続ける。


「予期せぬ事態への対応も含め、今回の経験は今後のお前たちにとって大きな意味を持つはずだ。魔物との戦闘、未知の土地での探索、そして、想定外の敵との遭遇。学園の中だけでは得られないものを学んだはずだ」


 そこで一度言葉を切る。


「そして、二年生の武闘大会も近付いている」


 生徒たちの表情が変わる。


「今回の経験を活かせ。それぞれ、十分に備えておけ。以上だ」


 これをもって遠征学習は正式に終了した。


 生徒たちはそれぞれ帰路につこうとする。


 しかし。


「レオン君、ルシアン君」


 エイルが二人へ声を掛けた。


「ヒューギル様がお呼びよ」


 二人は顔を見合わせる。


「分かりました」


「俺もですか?」


「ええ、今回の件について、直接報告してもらいたいそうよ」


 三人はヒューギルの待つ場所へ向かった。


◇ ◇ ◇


 ヒューギルが待つ、守護者の部屋。


 ヒューギルは二人の報告を静かに聞いていた。


 最初に口を開いたのはレオンだった。


「俺が戦った魔族は、ヴォイドと名乗っていました。空間魔法の使い手で、空間魔法で大量の魔物を呼び出していました」


 ヒューギルが頷く。


「ヴォイドか」


「知っているのですか?」


「ああ」


 ヒューギルに代わってエイルが答える。


「長年、魔王軍に所属している魔族よ。魔王軍でも屈指の空間魔法の使い手として知られているわ」


 ヒューギルも続ける。


「単純な戦闘能力以上に、その空間魔法が厄介な男だ。魔物や兵力を遠方へ移動させることもできる。戦争となれば、非常に危険な存在だ」


「……そうだったんですね」


 レオンは改めて自分が戦った相手の危険性を理解する。


「だが」


 ヒューギルの視線がルシアンへ向いた。


「今回、より重要なのはそちらの報告だろう」


 レオンがルシアンを見る。


「ルシアンの?」


「はい」


 ルシアンは静かに頷いた。


「私は崩落後、魔王軍四天王のイリシアと遭遇しました」


「えっ?」


 レオンが目を見開く。


「イリシアって、あの四天王の?」


「そうです」


「聞いてないぞ」


「話す機会がありませんでしたから」


「いや、あっただろ」


 レオンの言葉を流し、ルシアンは報告を続ける。


「戦闘にはなりませんでした。少し会話をしただけです」


 ヒューギルが先を促す。


「そこで得た情報ですが、どうやら魔王軍は、SSSランクの魔物。十七厄災を味方へ引き入れようとしているようですね」


「……」


 レオンの表情が強張る。


 しかし、ヒューギルとエイルに驚いた様子はなかった。


「こちらでも把握している」


 ヒューギルが重々しく答える。


「現状でも、既に数体の十七厄災が魔族に協力しているようだ」


「そんな……」


 レオンは言葉を失う。


 ヒューギルは静かに立ち上がった。


「我々は徐々に追い詰められつつある」


 その視線がレオンへ向く。


「だからこそ、お前の成長は必須である」


 重い声が響く。


「勇者レオンよ」


「……はい」


「お前は強くなってきている。今回の遠征でも、格上の魔族が用意した魔物の群れを一人で打ち破った。精霊も成長したと聞いている」


 レオンの隣では、中位精霊となったルーチェが静かに浮かんでいた。


「だが」


 ヒューギルの声がさらに厳しくなる。


「まだ足りない」


 レオンは黙ってその言葉を受け止める。


「この先に待っているのは、これまで以上の戦いだ。今のお前の強さは、SSランク下位といったところだろう」


「……はい」


「お前は急ぎ、SSSランクの力を手に入れなければならない」


 レオンが顔を上げる。


「SSSランク……」


「ああ。そうでなければ、手遅れになる」


 室内に沈黙が落ちる。


 そしてヒューギルは、さらに重い事実を口にした。


「まだ公にはされていないが、邪神教と呼ばれる集団によって、邪神の復活も近付いている」


「邪神……」


 レオンの表情が強張る。


「人間側には希望の光が必要なのだ。魔族、十七厄災、そして邪神教。これから先、世界は今まで以上に大きく揺れることになる」


 ヒューギルは真っ直ぐにレオンを見据えた。


「だからこそ、お前には強くなってもらわなければならない。勇者として」


 レオンは拳を握り締める。


 そして。


「分かりました」


 真っ直ぐにヒューギルを見返す。


「俺は強くなります。何が相手でも、みんなを守れるくらいに」


 ヒューギルは静かに頷いた。


「ああ」


 そして今度はルシアンを見る。


「勇者のことは、引き続き頼むぞ。ルシアン」


 ルシアンは静かに頭を下げた。


「承知しました」


 世界は少しずつ動き始めている。


 その中心に立つ勇者は、まだ自分に課せられた役割の重さを知らなかった。


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