第305話
第305話
「始め」
ルシアンの合図と同時に、グランヴェルが地を蹴った。
最初から全力。
「来い!」
その声に応えるように、火の中位精霊が姿を現す。
「グランヴェル!イクゾ!」
精霊の魔力が流れ込み、赤い炎が一瞬で黄金へと染まった。
周囲の空気が一気に熱を帯びる。
「……あれが、黄金の炎か」
アルトが静かに呟く。
カインは獰猛な笑みを浮かべた。
「そうこなくっちゃな」
グランヴェルは一直線に距離を詰める。
短期決戦。
黄金の炎はまだ長時間維持できない。
だからこそ、一瞬で決める。
「はああぁぁっ!!」
炎を纏った大剣が振り下ろされる。
だが、カインは避けない。
真正面から剣を振るった。
――轟ッ!!
凄まじい衝撃が結界内を駆け抜ける。岩肌が砕け、土煙が舞う。
二人は互角に鍔迫り合う。
だが、その均衡も一瞬だった。グランヴェルは炎をさらに強める。
「押し切る!」
黄金の炎が爆発するように燃え上がった。
カインの腕や肩へ炎が掠め、皮膚が焼け、浅い傷が刻まれた。
しかし。
「だから何だ」
カインは笑っていた。
その目は獲物を見つけた猛獣そのもの。
「もっと来い!」
次の瞬間、カインが踏み込む。
ただ、それだけだった。
特別な技でもない、魔法でもない、純粋な踏み込み。純粋な剣技、純粋な膂力。
それだけで空気が弾けた。
「っ!?」
グランヴェルの表情が変わる。
重い、あまりにも重い。
押し返される。
「まだだ!」
黄金の炎を纏い直し、再び斬りかかる。
だが、カインは一歩も引かない。
剣を振るい、受ける。弾く。
その一つひとつが洗練されていた。
獣のような戦闘勘。
理屈ではない。
経験と直感だけで、最善の一手を選び続けている。
「ぐっ……!」
グランヴェルが押され始める。
火力では確かに成長した。昨年とは比べ物にならない。それでも、カインはそれ以上だった。
「終わりだ」
低く呟く。
次の瞬間、全身を使った豪快な一撃。
――ドォン!!
グランヴェルの剣ごと弾き飛ばした。
「がっ……!」
身体が宙を舞う。そのまま一直線に飛ばされ、ルシアンが展開した結界へ激突した。
轟音。
結界が大きく波打つ。
グランヴェルは膝をつき、そのまま立ち上がれなかった。
静寂。
ルシアンはゆっくりと右手を上げる。
「そこまで、勝者カイン」
カインは剣を肩へ担ぎ直し、満足そうに笑った。
「やっぱり面白ぇな、お前」
グランヴェルは悔しそうに息を吐きながらも、小さく笑う。
「……化け物め」
その言葉に、カインは楽しそうに笑い声を上げた。




