第304話
第304話
遠征学習は中止となり、一行はアーカディアへの帰路についていた。
幸い、その後は魔物や魔族と遭遇することもなく、順調に進んでいる。
そして帰路の野営、行程も既に半分以上を終えていた。
夕方、焚き火の周りでは、ようやく緊張から解放された生徒たちが思い思いに過ごしている。
「ルーチェ、ありがとうな」
レオンが笑いながら話しかける。
中位精霊となったルーチェは嬉しそうに宙を一回転した。
「レオン、モットツヨクナル!」
「はは、それは俺も頑張らないとな」
その様子を見ていたフィアナは自然と笑みを浮かべる。
「すっかり仲良しですね」
「まあね」
ノエルも口元を緩めた。
シルフィも楽しそうにルーチェの周りを飛び回る。くるくると弾むように舞いながら、嬉しそうに光を瞬かせる。ルーチェもそれに応えるように明るく輝いた。
一方、ルナはいつも通りノエルの肩に静かに座っていた。シルフィが腕を引っ張るように手を振る。小さく跳ねながら、こちらへ来るように何度も促す。
ルナは最初こそ知らんぷりしていたが、小さくため息をつくと二人の方へ飛んでいく。
その姿を見てノエルが苦笑した。
「なんだかんだ仲良くなってきたね」
「ええ」
フィアナも頷く。
そんな穏やかな時間を過ごしていると、二人の人物がこちらへ歩いてきた。
「ルシアン」
グランヴェルだった。
隣にはカインの姿もある。
「どうしました?」
ルシアンが尋ねる。
グランヴェルは腕を組んだまま答えた。
「模擬戦だ。相手はこの男」
親指でカインを指す。
カインは獣のような笑みを浮かべた。
「昨年の武闘大会以来だ」
ルシアンは少しだけ納得したように頷く。
「なるほど、それで私に何を?」
「審判を頼みたい」
今度はカインが口を開く。
「それと、万が一本気になりすぎた時のストッパーだな。アルトにも頼んである」
ちょうどそのタイミングでアルトも姿を現した。
「話は聞いている。俺は止め役だ」
ルシアンは二人を見比べる。
「教員の許可は?」
「もちろん取ってある」
カインが答えた。
「ギデオン先生からも許可は出てる」
グランヴェルは静かに言う。
「今回の遠征では不完全燃焼だった。力を試す相手もいなかったからな」
カインが笑う。
「俺は逆に面白かったぞ。こいつとは結構話したしな」
レオンが少し驚く。
「一緒の班だったんですか?」
「ああ」
カインは頷いた。
「俺がこいつの班の担当だった。昨年戦ってから気に入ってたしな」
グランヴェルは少しだけ嫌そうな顔をする。
「勝手についてきただけだ」
「ははっ」
カインは豪快に笑った。
「そういうことにしといてやる」
ルシアンたちは少し離れた場所へ移動する。野営地から十分離れた、開けた岩場。戦うには申し分ない場所だった。
ルシアンは静かに前へ出る。
「それでは」
ルシアンが片手を掲げると淡い光が周囲へ広がり、巨大な半球状の結界が展開された。
外へ被害が及ばないよう、魔力を幾重にも重ねる。
アルトは腕を組み、二人の中央付近へ視線を向けた。
「俺は止め役だ。派手にやるのは構わんが、加減はしろ」
カインは剣を肩へ担ぐ。
「加減?そんなもんできる相手じゃねぇだろ」
グランヴェルも黄金の瞳を細めた。
「同感だ」
二人はゆっくりと距離を取る。
張り詰めた空気。
互いの視線が交差する。
ルシアンは二人を見渡し、静かに右手を上げた。
「それでは――始め」




