第303話
第303話
本当なら、もう少し探索を続けたかった。この先に何があるのか。あの異様に濃い魔力の正体は何なのか。気になることはいくつもあった。
だが。
(イリシアがいる以上、これ以上深入りするのは得策ではありませんね。)
ルシアンは踵を返した。
来た道を戻りながら探知魔法を広げる。すると、ほどなくして聞き慣れた魔力を捉えた。
「見つけた」
風が吹く。
その先にはエイルが立っていた。
エイルもルシアンに気付き、小さく息を吐く。
「いたいた。やっぱり無事だったわね」
「ご心配をおかけしました」
ルシアンは軽く頭を下げる。
「それで、何かあった?」
エイルが尋ねる。
ルシアンは短く答えた。
「魔王軍四天王、イリシアと遭遇しました」
一瞬、エイルの表情が引き締まる。
「……イリシア?」
「はい。ただ少し話をしただけで、戦闘にはなりませんでした」
ルシアンはイリシアから聞いた内容を簡潔に伝えた。
「SSSランクの魔物、氷牙獣スカルディを仲間に引き入れるために来ていたそうです」
「なるほどね……」
エイルは静かに考え込む。そしてすぐに結論を出した。
「予定ではまだ日数は残っているけど、魔族がいた以上、この遠征は続けられない。中止にしましょう」
「賛成です」
二人は拠点へ向かった。
◇ ◇ ◇
拠点へ戻ると、勇者パーティやアルトたちの姿があった。
「ルシアン!」
最初に気付いたのはノエルだった。
「無事だったんだ」
「ええ、皆さんも無事で何よりです。」
ガイウスが安堵したように笑う。
「心配させやがって、レオンなんかお前を探しに行こうとしてたんだぞ」
ルシアンは視線を向ける。
レオンは毛布に包まれ、静かに眠っていた。消耗が激しかったのだろう。規則正しい寝息だけが聞こえる。
その傍らでは、成長したルーチェが心配そうにレオンの顔を覗き込んでいた。
「レオン……」
小さく呟きながら、そっと頬へ手を伸ばす。
その姿を見てフィアナが微笑んだ。
「ずっとああして見守っているんです。離れようとしなくて」
ルシアンも小さく笑った。
「優しい子ですね」
そこへエイルが全員の前へ進み出る。
「みんな、聞いて」
その一言で周囲が静まり返った。
「守護者として判断します。今回の遠征学習は、この時点で中止です」
ざわめきが広がる。
エイルは落ち着いた口調で続けた。
「理由は二つ。一つ目は、この山に魔族が確認されたこと。二つ目は、黒嶺山脈の様子が例年とあまりにも違いすぎること」
「魔物の活発化、雪や吹雪の範囲の拡大、そして今回の襲撃。これ以上探索を続けるのは危険と判断しました」
誰も異論は口にしなかった。
実際に魔族と交戦した者たちだからこそ、その判断が正しいと理解できる。
エイルは最後に付け加える。
「なお、今回の評価については学園側でしっかり考慮するので、安心してください」
その言葉をもって遠征学習は終了となった。
全員が荷物をまとめ始める。アーカディアへの帰路。
誰もが疲労を抱えながらも、無事に帰れることへ安堵していた。
その一方で、黒嶺山脈の奥では、今もなお濃密な魔力が静かに渦巻いていた。




