第300話
第300話
ヴォイドが去り、辺りに静寂が戻る。
レオンはその場へ座り込んだまま、大きく息を吐いた。
「はぁ……はぁ……」
全身から力が抜けていく。
剣を握ることすら難しい。
ルーチェも心配そうにレオンの肩へ寄り添いながら、「ダイジョウブ?」とカタコトで声をかけていた。
ギデオンは周囲を警戒しながらレオンへ近づく。
「立てるか」
レオンは苦笑した。
「すみません、先生……。もう……力が入りません」
ギデオンは無理に立たせようとはしなかった。
「無理をするな」
レオンは荒い息のまま尋ねる。
「みんなは……」
「アルトとライルが保護した。既に拠点へ戻っている」
その言葉にレオンは少しだけ安堵する。
しかし、すぐに表情が曇った。
「……ルシアンは?」
ギデオンは静かに首を横へ振る。
「まだ見つかっていない」
レオンは歯を食いしばる。
「だったら……」
震える腕で地面を押し、立ち上がろうとする。
「ルシアンを……探しに……」
その時だった。
ふわりと風が吹いた。冷たい山の風とは違う、どこか優しい風。
次の瞬間、一人の女性が静かに姿を現した。
「レオンは無事なようね」
風の守護者、エイルだった。
ギデオンが一礼する。
「エイル様」
エイルはレオンへ一度だけ視線を向ける。
「ルシアンのことは私に任せて。ギデオン、あなたはレオンを拠点まで連れて行きなさい。」
その言葉を聞いた瞬間、ギデオンの脳裏に遠征開始前の出来事が蘇る。
◇ ◇ ◇
「ギデオン」
出発直前、エイルは彼だけを呼び止めていた。
「どのようなご用件でしょうか」
ギデオンが尋ねる。
エイルは穏やかな表情のまま口を開いた。
「あのパーティのことよ。何か不測の事態が起きても、基本的には心配しなくていいわ。」
ギデオンは首を傾げる。
「……どういう意味でしょう」
「ただし」
エイルは少しだけ真剣な表情になった。
「レオンやフィアナのことは気にかけてあげて。ルシアンについては、一番心配しなくていいわ」
その言葉にギデオンは驚きを隠せなかった。
「彼が学園の評価通りの男ではないことは理解しているつもりです。しかし、彼も学生です。守るべき対象なのでは?」
エイルは小さく笑った。
「彼は強いわ。私も、ヒューギル様も認めている」
そして続ける。
「それに彼自身からも言われているの」
『自分のことは後回しで構いません。』
「……ってね」
ギデオンはしばらく考え込む。
まだ腑に落ちない。
だが、守護者がそこまで言うのなら。
「……承知しました」
◇ ◇ ◇
回想が終わる。
ギデオンは静かに頷いた。
「わかりました。私はレオンを連れて先に戻ります。ルシアンのことは、お任せします。」
そう言うと、レオンを背中へ担ぎ上げた。
レオンは力なく、それでも必死に顔を上げる。
「エイル様……!ルシアンのこと……お願いします!」
エイルは優しく微笑んだ。
「ええ、任されたわ」
ギデオンはそのまま拠点へ向けて駆け出す。
その背中を見送りながら、エイルは静かに呟いた。
「まあ……、彼に心配はいらないと思うけど」
風が静かに吹き抜ける。
エイルは山の奥へ視線を向けた。
「さて、どこへ行ったのかしら」




