第298話
第298話
意識が浮かび上がる。
「……っ」
全身に鈍い痛みが走った。
レオンはゆっくりと目を開ける。辺りは薄暗い。崩落によってできた巨大な地下空間のようだった。
「みんな……?」
返事はない。
見える範囲には誰一人としていなかった。
その時、小さな光がふわりと浮かぶ。
ルーチェだった。
優しい光が周囲を照らし、暗闇を追い払っていく。
「ありがとう、ルーチェ」
レオンは小さく笑う。
「お前がいてくれて助かった」
ルーチェは嬉しそうに身体を揺らした。
レオンは剣を握り直す。
「ここで待ってても仕方ない。みんなと合流しよう」
慎重に歩き始める。地下は思っていた以上に広い。岩壁が続き、時折どこからか冷たい風が吹き抜けてくる。
その途中だった。
「……?」
誰かに見られているような感覚。
咄嗟に振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
ルーチェも首を傾げている。
「気のせい……か?」
再び歩き始める。
やがて通路は開け、大きな空洞へと繋がっていた。
その瞬間、唸り声が響く。
「!」
岩陰から魔物が飛び出した。
一体、二体、三体。
次々と姿を現す。
「来い!」
レオンは迷わず迎え撃つ。
ルーチェの光が剣を照らす。
一閃。
魔物が倒れる。
しかし、それで終わりではなかった。
さらに奥の空間が歪み、そこから一人の男がゆっくりと歩み出た。
銀灰色の髪、鋭い紫の瞳、冷たい笑みを浮かべた魔族。
「初めまして、勇者」
男は軽く頭を下げた。
「我が名はヴォイド。魔王軍に仕える者だ」
レオンは剣を構える。
「さっきの魔族か」
ヴォイドは静かに笑った。
「まさか勇者をこうして孤立させられるとは、僥倖というべきだな」
右手を軽く振る。
その瞬間、幾つもの魔法陣が展開された。
次々と魔物が現れる。Aランク、さらに奥にはSランクの魔物まで混じっている。
「全部……相手しろっていうのか」
レオンは息を吐く。
「なら、やるしかない!」
勇者の力が輝く。
星の神・アストレイアの加護で未来がほんの僅かに見える。
迫る牙、振り下ろされる爪。その軌道を見切り、最小限の動きでかわす。
「はぁっ!」
火炎が走り、一体を焼き払う。
続けて水刃が飛び、別の魔物を貫いた。
さらに光の剣閃で魔物が次々と倒れていく。
ルーチェも懸命に光を放ち、レオンを支える。
だが、終わらない。一体倒せば、また一体。二体倒せば、さらに三体。
四方八方から魔物が押し寄せる。
「くっ……!」
レオンの肩へ爪が掠めた。
血が滲む。
それでも剣は止まらない。
斬り、避け、魔法を放つ。だが、体力も魔力も確実に削られていく。
ヴォイドは離れた場所から静かにその様子を眺めていた。
「やはり勇者、強い。だが、数というものは、時に個の力を容易く呑み込む」
レオンは息を切らしながら剣を構え直す。
目の前には、なおも迫り来る魔物の群れ。
少しずつ、確実に、勇者は追い詰められていった。




