第296話
第296話
二日目。
まだ陽が昇りきる前から、一行は野営地を後にした。
昨日よりもさらに山の奥へ、慎重に探索を続けていく。
「昨日より寒いな」
ガイウスが腕をさする。
「少し標高が上がったからな」
テオドールが周囲を見渡す。
木々の根元には薄っすらと雪が積もり始めていた。
昨日まではほとんど見られなかった光景だ。
吐く息も白い。
「シルフィ、風はどう?」
ノエルが尋ねる。
シルフィは辺りを一周すると、元気よく頷くように身体を揺らした。
ルナは相変わらずノエルの肩に座り、静かに周囲を警戒している。
レオンの肩ではルーチェも落ち着かない様子で辺りを見回していた。
◇ ◇ ◇
午前中。
一行は大きな岩場へ差しかかっていた。
その時。
「来ます。」
ルシアンの声と同時に、巨大な影が岩陰から飛び出した。
全身を白銀の毛で覆われた熊型の魔物。
「Sランクだ!」
レオンが即座に叫ぶ。
しかし、誰一人慌てる者はいない。
「俺が正面!」
レオンが飛び出す。
真正面から剣をぶつける。
熊型の魔物が咆哮を上げるが、その隙にノエルが側面へ回り込む。
風を纏った一撃。
さらにテオドールの魔法が脚を止める。
ガイウスが盾で体勢を崩し、フィアナが全員へ支援魔法を掛ける。
「今です!」
「おう!」
最後はレオンの一閃。
魔物は大きく倒れ込んだ。
「ふぅ……」
レオンが息を吐く。
ライルが感心したように笑う。
「これ、本当に俺たち護衛必要?」
アルトも静かに頷いた。
「十分な実力だ。」
ギデオンも何も言わない。
ただ一度だけ小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
午後。
一行はさらに奥へ進む。
周囲の景色は少しずつ変化していた。
「……雪が増えてきましたね。」
フィアナが呟く。
木々の枝、岩場、足元に白い雪が目立つようになっている。
そして遠くでは、白い風が山を覆っていた。
吹雪だ。
アルトはその光景を見つめ、眉をひそめる。
「……おかしい」
隣のライルも真剣な顔になる。
「ああ、こんなところまで吹雪いてたっけ?」
ギデオンも足を止めた。
しばらく周囲を観察してから低く呟く。
「例年なら、この辺りに雪は積もっていない。吹雪の範囲も広い。」
ルシアンも静かに辺りを見渡す。
「魔物も昨日より多いですね」
実際、この日は昨日以上に魔物と遭遇していた。
しかも、どれも妙に気性が荒い。
ギデオンは腕を組んだ。
「活発化している……か」
アルトも頷く。
「自然現象だけでは説明がつかんな」
何かが起きている。
その場にいた全員が、何となくそう感じていた。
◇ ◇ ◇
日が傾き始める頃。
一行は再び天然の洞窟を見つけ、二日目の野営地とした。
焚き火を囲みながら夕食を取る。
外では冷たい風が岩肌を叩いていた。
食事を終えた頃、ギデオンが全員へ声を掛ける。
「少し話がある」
全員が焚き火の前へ集まる。
ギデオンは真剣な表情で口を開いた。
「今日一日歩いて確信した。この山はいつもと様子が違う」
静かな空気が流れる。
アルトも続けた。
「例年なら、この辺りまで雪は来ないが、吹雪の範囲も明らかに広がっている」
ライルも頷く。
「魔物も多かったしな、しかも妙に気が立ってた。」
ギデオンは全員を見渡した。
「断定はできん。だが、この山で何か異変が起きている可能性がある。明日以降は今日まで以上に警戒して行動しろ。以上だ。」
焚き火の火が静かに揺れる。
誰も軽口を叩く者はいなかった。
黒嶺山脈。
その奥で、何かが静かに動き始めていた。




