第295話
第295話
黒嶺山脈での探索が始まった。
森林と岩場が入り混じる山道を慎重に進みながら、周囲を警戒する。
先頭はノエル、斥候として周囲の索敵を担当している。その肩にはルナ、少し前を元気よく飛び回るのはシルフィだった。
「シルフィが嬉しそうですね」
フィアナが微笑む。
「山の風が気持ちいいんじゃない?」
ノエルも笑う。
シルフィはくるくると宙を舞い、楽しそうに風を操っていた。
その後ろではレオンの肩に乗ったルーチェも周囲を見渡している。
「ルーチェ、何か見つけたか?」
レオンが声を掛けると、ルーチェは小さく身体を揺らして返事をする。
「便利ですね」
ルシアンが呟く。
「精霊がいるだけでも索敵能力はかなり上がります」
そんな会話をしていると、ノエルが足を止めた。
「来る」
次の瞬間、岩陰から狼型の魔物が三体飛び出した。
「俺が行く!」
レオンが駆け出す。
剣を抜き、一体目を迎え撃つ。
ルーチェが周囲を飛び回りながら光を放ち、レオンの動きを補助する。
続く二体目はガイウスが盾で受け止める。
その隙にテオドールの風刃が飛ぶ。
最後の一体はノエルが背後へ回り込み、一瞬で急所を切り裂いた。
わずか数十秒で戦闘は終わった。
「終わり!」
ガイウスが笑う。
その様子を後方からアルトとライルが静かに見守っていた。
「いやぁ、二年生って聞いてたけど、十分強いな」
その後も探索は順調だった。
指定された薬草を採取し、魔物の素材を回収し、岩場では希少鉱石もいくつか見つかる。
ガイウスが大きな鉱石を抱えながら笑った。
「これ結構高そうじゃね?」
「品質も悪くないな
テオドールが確認する。
「査定が楽しみですね」
フィアナも微笑んだ。
順調だった。
だが昼過ぎ。
ノエルが再び足を止める。
「……待って」
全員が止まる。
ノエルは地面へしゃがみ込んだ。
「これは」
レオンも近付く。
「足跡か?」
「うん」
ノエルは真剣な表情で頷いた。
「しかも大きい」
ルシアンも跡を確認する。
岩肌には深い爪痕。
木々には大きく抉られた跡。
「Sランクでしょうね」
その一言で空気が引き締まる。
ギデオンも無言で周囲を見渡した。
「まだ新しい、近くにいる可能性がある」
誰も異論はなかった。
今の目的は討伐ではない。
遠征学習だ。
その後も慎重に探索を続け、大きな問題なく一日目は終了した。
◇ ◇ ◇
日が沈み始める頃。
一行は山腹にある天然の洞窟へ到着した。
ルシアンの指示に従い、手際よく準備が進む。
洞窟の入口付近には結界。
奥には焚き火。
交代で見張りも配置された。
外では冷たい山風が吹き続けている。
遠くから魔物の遠吠えが響いた。
焚き火を囲みながら、レオンは静かに呟く。
「やっぱり黒嶺山脈は空気が違うな」
ルシアンも外へ目を向ける。
「ええ、まだ一日目ですからね。本番はこれからでしょう」
その言葉通り、一日目は何事もなく終わった。
しかし、この山には確かにSランクの魔物が息づいている。
その気配だけが、静かに一行を見下ろしていた。




