第294話
第294話
アーカディアを出発してから数日。
一行は順調に旅を続け、目的地である黒嶺山脈へ到着した。
眼前には切り立った岩山が連なり、冷たい風が山肌を吹き抜けていく。
遠くを見れば、さらに奥には白く染まった山々が見えた。
「あれが雪山か」
レオンが呟く。
アルトが頷く。
「ああ。あそこまで行けば強烈な吹雪も珍しくない。今回、君らが探索するのはその手前までだ。雪山へ奥深く入ることはない」
その言葉に全員が周囲を見渡した。
現在地はまだ森林と岩場が入り混じる地帯。
十分寒いが、探索には支障のない気候だった。
◇ ◇ ◇
まず最初に行われたのはキャンプ地の設営だった。
教員や四年生を中心に手際よくテントが張られ、荷物が整理されていく。
ここが今回の遠征学習の拠点となる。
レオニードが全員を集めた。
「ここを基点として行動する。何かあれば必ずこの場所へ戻れ。遠征学習終了時の集合場所もここだ」
全員が頷く。
続いてレオニードが説明を続けた。
「前回同様、各パーティごとに課題が設定されている。指定素材の採取、魔物の討伐、探索。状況をよく見て行動しろ。無理はするな」
その時だった。空から一陣の風が吹く。
次の瞬間、一人の女性が静かに姿を現した。
銀色の髪を風になびかせる守護者。
風の守護者――エイル。
その姿を見て、四年生たちも自然と背筋を伸ばく。
「紹介しておく」
レオニードが口を開く。
「今回は緊急時対応として守護者エイル様にも待機していただいている。万が一の事態が起きた場合は、エイル様が対応される」
エイルは全員を見渡し、柔らかく微笑んだ。
「みんな、あまり気負わなくて大丈夫よ。もちろん油断は駄目だけどね。困ったことがあったら、遠慮せず四年生や先生を頼ること」
「それと――」
一度空を見上げる。
「黒嶺山脈は生き物も自然も気まぐれだから、周りをよく見て行動すること。みんなが無事に帰ってくることを願ってるわ」
短い言葉だった。
だが、その声には安心感があった。
◇ ◇ ◇
出発準備が整う。
いよいよ探索開始という時だった。
「ギデオン」
エイルが静かに呼び止める。
「少し話があるわ」
「……承知しました」
二人は少し離れた場所へ歩いていった。
勇者パーティからは何を話しているのかまでは聞こえない。
しばらくして戻ってきたギデオンは、先ほどと変わらない厳しい表情をしていた。
「待たせた」
そう一言だけ告げる。
その横でエイルはルシアンへ一瞬だけ視線を向ける。
本当に一瞬だけ。
すぐにいつもの穏やかな笑みに戻った。
「それでは、遠征学習を開始する」
勇者パーティは互いに頷き合う。
黒嶺山脈。
数々の魔物と貴重な素材が眠る未開の山岳地帯。
誰もまだ、この遠征が予想もしない事態へと繋がっていくことを知らなかった。




