第291話
第291話
黒嶺山脈での遠征学習まで残り二週間。
この日の授業では、遠征に向けた事前学習が行われていた。
教壇に立つレオニードが一枚の資料を掲げる。
「今回の遠征学習では、指定された素材の採取が課題となる」
全員が資料へ視線を向けた。
「ただし、今回は指定素材以外にも点数が設定されている」
教室が少しざわつく。
「もちろん、指定素材の方が配点は高い。だが、指定素材を見つけられなかったとしても、その他の素材を十分集められれば合格点に届く可能性はある」
レオンは資料に目を落とした。
そこには黒嶺山脈で採取できる鉱石や薬草、魔物素材などが細かく記載されている。
「判断も試験の一つだ。指定素材だけを追うか、安全を優先して確実に点数を積み重ねるか。状況に応じて選べ」
ルシアンは静かに資料を読み進める。
(採点方法が昨年より柔軟になっていますね)
単純な探索能力だけではない。
状況判断や危険管理も評価対象ということだろう。
「黒嶺山脈には多様な環境が存在する」
レオニードは黒板へ地図を書き始めた。
「麓は森林地帯。中腹は岩場が多く、鉱石が豊富だ。そして奥へ進むにつれて気温は急激に低下し、雪山へ変わる」
続いて、魔物の一覧が黒板へ書き込まれる。
「今回の行動範囲は雪山の手前までの予定だ。とはいえ、Aランクの魔物は珍しくなく、Sランクの魔物も生息している」
ガイウスが思わず息を呑む。
「本当に出るんだな……」
「遭遇しない保証はない」
レオニードは真剣な表情で続ける。
「無駄な戦闘は避けろ。戦う価値があるかどうかを見極めることも重要だ」
その後も授業は続いた。
黒嶺山脈特有の薬草、雪解け水の流れ、魔物の縄張り、危険な植物、遭遇率の高い魔物の特徴。
それぞれが資料へ書き込みを加えながら知識を頭へ入れていく。
◇ ◇ ◇
放課後、勇者パーティは図書室へ集まっていた。
「結構種類が多いな」
レオンが分厚い図鑑を閉じる。
「全部覚えるのは大変そうだ」
「全部覚える必要はない」
テオドールが淡々と言う。
「指定素材を優先し、それ以外は価値の高いものだけ押さえておけば十分だ」
「植物は私がある程度分かります」
フィアナが資料を広げる。
「薬草関係なら任せてください」
「鉱石は俺が見ようか」
ガイウスも加わる。
「森や岩場の地形は私が調べとく」
ノエルも本を手に取った。
自然と役割分担が決まっていく。
その様子を見ながらルシアンは静かに頷いた。
「各自の得意分野を活かせば、効率も上がりますね」
レオンも笑う。
「ああ、今回も全員で無事に帰ってこよう」
「当然です」
フィアナが微笑む。
「そのための準備ですから」
遠征まで残り二週間。
勇者パーティは着実に知識を蓄え、次なる試練への備えを進めていくのだった。




