第290話
第290話
グランヴェルとルシアンが手合わせをしてから数日が過ぎた。
授業、訓練、自主練習。普段と変わらない学園生活。
新一年生たちの騒がしさも相変わらずだったが、何だかんだで大きな問題は起きていない。
そして気付けば、次の遠征学習まで残り二週間となっていた。
そんな中、一人だけ以前と少し様子が変わった者がいた。
レオンだった。以前より考え込む時間が増えている。
休み時間も、訓練の合間も、一人で剣を眺めていることが多くなった。
グランヴェルの黄金の炎、ルシアンの技術。
あの日見た戦いが頭から離れなかった。
「……どうした?」
ガイウスが尋ねる。
「いや」
レオンは苦笑する。
「ちょっと考え事」
「最近多いよな」
「そうか?」
「そうだよ」
ガイウスは笑った。
「何か悩んでるなら相談しろよ」
「ありがとな」
レオンは笑い返す。
その時だった。ふとレオンの肩に小さな光が舞い降りた。光の下位精霊。
レオンは自然とその小さな精霊へ話しかける。
「今日も頼むな」
光の精霊は嬉しそうに身体を揺らした。
以前なら積極的に話しかけることはなかった。
だが今は違う。グランヴェルと火の中位精霊。
二人のやり取りを見てから、レオンは以前にも増して精霊へ話しかけるようになっていた。
そんな様子をルシアンは静かに見ていた。
やがてホームルームの時間。
レオニードが教室へ入ってくる。
「席につけ」
教室が静かになる。
「今日は次の遠征学習について話す」
その一言で教室の空気が引き締まった。
「場所は魔族領に近い山岳地帯――黒嶺山脈だ」
ざわりと教室がざわつく。
「今回は少し遠出になる。前回と同じく、各パーティごとに課題を設定する」
レオンたちも真剣な表情で話を聞く。
「ただし」
レオニードの声が少し低くなる。
「前回より難易度は大きく上がる。今回向かう黒嶺山脈にはSランクの魔物も生息している」
その言葉に一年前なら驚いていただろう。
だが今のSクラスは違う。
誰一人として浮き足立つ者はいなかった。
「十分に調べ、準備を整えて臨め。知識不足は死に繋がる」
教室は静まり返っている。
「それと、今回も各パーティに四年生二名と教員一名が同行する。安全面を考慮しての措置だ」
そこで一拍置く。
「だが、油断はするな。即死してしまえば助けられん」
重い言葉だった。
学園最強クラスの教員や四年生がいても、助けられない状況はある。
「昨年より厳しい遠征になると思え。心して臨め」
レオニードは教室全体を見渡した。
「以上だ」
その一言でホームルームは終わる。
遠征学習まで残り二週間。Sランクの魔物が待つ黒嶺山脈。
勇者パーティは、それぞれ静かに決意を新たにしていた。




