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果てなき世界  作者: 影川明空人
第6章 学園2年目
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第289話

第289話


 放課後の訓練場で向かい合うのはルシアンとグランヴェル。


 その様子を、レオンたち勇者パーティが静かに見守っていた。


「それでは――ゆくぞ!」


 先に動いたのはグランヴェルだった。


 一気に間合いを詰め、炎を纏った剣を振り下ろす。


 だがルシアンは半歩身体をずらすだけで躱した。


 続く横薙ぎ、突き、斬り上げ。どれも紙一重で避けられていく。以前と変わらない光景だった。


「以前よりは威力が上がっていますね」


 ルシアンが冷静に言う。


「ですが、こんなものではないのでしょう?」


 グランヴェルが口元を吊り上げた。


「ああ、準備運動は終わりだ」


 そう言って左手を前へ突き出す。


「来い!」


 次の瞬間、グランヴェルの前に小さな炎が現れた。


 炎はゆっくりと形を変え、人型となる。


「……精霊?」


 ガイウスが目を丸くした。


「ガイウスが見えるってことは……下位精霊じゃない」


 ノエルも驚いた表情を浮かべる。


 ルシアンはその姿を見ると納得したように頷いた。


「なるほど、精霊と契約したのですね」


 グランヴェルは鼻を鳴らした。


「修行中にコイツの方から寄ってきたのだ」


 火の中位精霊はルシアンを見つめる。


 そしてグランヴェルを見上げた。


「グランヴェル。コイツト、タタカウ?」


「そうだ」


 グランヴェルは剣を構える。


「力を貸せ!」


 火の中位精霊は嬉しそうに炎を揺らした。


「ワカッタ!」


 その瞬間だった。


 グランヴェルの剣を包む炎が変化する。赤かった炎は黄金へ。


 眩く輝く黄金の業火が剣身を覆い尽くした。


「なんじゃありゃ……」


 ガイウスが思わず呟く。


「金色の炎……」


 テオドールも目を細める。


「ちょっと熱い……」


 ノエルが額の汗を拭った。


 離れた場所にいるにもかかわらず、熱気が伝わってくる。


 ルシアンは静かに微笑む。


「ちゃんと火力を上げることに成功したようですね」


「行くぞ!」


 グランヴェルが地面を蹴る。先程とは比較にならない速度。黄金の炎を纏った剣が振り下ろされる。


 ルシアンは躱した。


 その瞬間、轟音が響く。


 剣が叩きつけられた地面が砕け、その一部が熱で溶け始める。


「……!」


 レオンが息を呑む。


 あまりの火力だった。


 ルシアンは静かにその跡を見つめる。


「この熱の感じは、ドラクスにも劣っていないでしょう」


「どうだろうな!」


 グランヴェルは笑う。


 そして次々と斬りかかる。


 縦、横、斜め。


 黄金の炎が軌跡を描き、周囲を焼いていく。


 しかし、当たらない。


 ルシアンは最小限の動きで避け。時には剣で受け流し、時には身体を捻って捌く。


 黄金の炎はルシアンの身体を掠めることすらできなかった。


「たしかに火力は上がりました」


 ルシアンが静かに言う。


「でも――」


 グランヴェルの猛攻は止まらない。


 それでも、一向に届く気配はない。


「当たらなければ、どうということはありません」


「くっ……!」


 グランヴェルが悔しげに声を漏らす。


 その時だった。


 火の中位精霊が少し寂しそうに呟いた。


「モウ、オワッチャウ」


 黄金の炎が揺らぐ。


 やがて黄金色は消え、いつもの赤い炎へと戻っていった。


「くそっ……」


 グランヴェルが剣を下ろす。肩で息をしていた。かなりの消耗だ。


 ルシアンも剣を納める。


「まだ長時間の維持は難しいみたいですね」


 グランヴェルは苦笑した。


「やはり……まだ届かんか」


 その表情には悔しさが滲んでいる。


 しかし、以前のように折れそうな様子はなかった。


 ルシアンはそんなグランヴェルを見て微笑む。


「いつものグランに戻ってよかったですよ」


 グランヴェルは鼻を鳴らした。


「生意気なやつめ」


 その声には、どこか清々しさがあった。


◇ ◇ ◇


 手合わせは終わり、それぞれが帰路につく。


 レオンだけは、その場にしばらく立ち尽くしていた。


 黄金の炎、火の中位精霊。


 そして、圧倒的な火力を持ちながら、それすら届かせなかったルシアンの技量。


 頭の中で何度も戦いを思い返す。


 一太刀ごとの意味を、一歩ごとの動きを。


 何度も、何度も。


 食い入るように見つめた光景を、心の中で繰り返していた。


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