第287話
第287話
セシルは依然として防戦一方だった。
双子の猛攻は途切れない。
左右から、死角から、絶え間なく繰り出される双短剣。
攻める暇など一切ない。
「押されてるな……」
ガイウスが呟く。
「このままだと厳しくないか?」
その隣でルシアンは静かに試合を見つめていた。
「そろそろですね」
「何がだ?」
ガイウスが首を傾げる。
ルシアンは小さく微笑む。
「見ていれば分かりますよ」
その言葉通りだった。
しばらくすると、双子の動きにほんの僅かな乱れが生まれる。
「……あれ?」
レオンも気付いた。
さっきまで寸分の狂いもなかった連携。それが少しずつ遅れ始める。リリアの踏み込み、リリスの追撃。
ほんの一瞬、噛み合わない場面が出始めた。
「疲れてきたか」
テオドールが言う。
ルシアンが頷く。
「ええ。双子の戦法は非常に強力です。しかし、あの速度を長時間維持できるほどの持久力はまだないようですね」
「それに」
ルシアンは続ける。
「今までここまで凌がれた経験も少ないのでしょう」
双子は攻め続けることに慣れている。
だからこそ、攻め続けても崩れない相手への戦い方はまだ完成していない。
「もう一つあります」
ルシアンの視線は足元へ向いていた。
「セシルは守るだけではありません」
ガイウスが目を凝らす。
するとようやく気付いた。
「地面?」
「はい」
セシルは地属性魔法を使い、戦いの最中に足場を僅かずつ変えていた。
本当に僅か、足を取るほどではない。
だが、踏み込みの角度が変わる。着地位置が狂う。知らず知らずのうちに小さなストレスが積み重なっていく。
「上手い……」
レオンが感心する。
「守るだけじゃなかったんだな」
その頃には、双子の連携にも精彩が欠け始めていた。
しかし、セシルもまた疲弊している。
盾を構え続ける腕、細かな魔法操作、受け流し続ける集中力。消耗は決して小さくない。
互いに限界が近い。
そして、リリアとリリスが視線を交わした。決める。その意思が一致する。
同時に、セシルも剣を構え直した。ここで決める。
周囲の魔力が一気に高まる。
光、風、火、地。四つの属性がぶつかろうとした。
その瞬間。
「そこまでです」
一人の影が間へ割って入る。
ルシアンだった。
三人とも反射的に攻撃を止める。
「なっ」
リリスが不満そうな声を上げる。
「何するの!」
「そうですわ!」
リリアも眉を吊り上げる。
「このままなら私たちが勝っていましたのに!」
ルシアンは落ち着いたまま答える。
「そうですか。ですが、お二人とも奥の手を使おうとしていましたね」
双子が一瞬黙る。
図星だった。
「これは試合です。殺し合いの場ではありません」
静かな声だった。
「お二人はセシルを殺したいのですか?」
「それは……」
リリスが言葉を詰まらせる。
リリアも視線を逸らした。
「……違いますけれど」
ルシアンは頷いた。
「でしたら十分でしょう」
その時だった。
セシルが剣を納める。
「もう結構です」
全員がセシルを見る。
「そこまで言うのであれば私の負けということで構いません」
「セシル!」
リリスが反応する。
だがセシルは首を横に振った。
「申し訳ありませんが、ここで失礼します」
フィアナが一歩前へ出る。
「セシル、手当は……」
「フィアナ様のお手を煩わせるわけにはいきません」
セシルは柔らかく笑った。
「回復魔法は使えますので。それでは失礼します」
一礼して背を向ける。
そのほんの一瞬、悔しそうに表情が歪んだ。
本当に僅かな変化。気付いたのはルシアン、レオン、そしてフィアナだけだった。
「ちょっと待ちなさい!」
リリアが追いかける。
「まだ話は終わってませんわ!」
「そうだよ!」
リリスも後を追う。
「逃げるなー!」
三人の姿は訓練場から消えていった。
後に残されたのは勇者パーティだけ。
静かな空気が流れる。
レオンが頭を掻いた。
「まあ、とりあえず一件落着……か?」
ルシアンは小さく頷いた。
「ですね」
そう言うと、勇者パーティもそれぞれ帰路についた。
騒がしい二週間。
だが遠征学習までは、もう残りわずかだった。




