第285話
第285話
翌日。
授業が終わった後、一行は学園内の訓練場へ集まっていた。
本来なら模擬戦となれば見物人が集まる。
だが今回は事情が事情で、面倒事を増やしたくない。
ということで昨日その場にいた者たちだけで行うことになった。
「場所はどうしたんだ?」
レオンが尋ねる。
「エイル様にお願いしました」
ルシアンが答える。
「なるほど」
ガイウスが納得する。
守護者の許可があるなら文句を言う者はいない。
訓練場の中央、向かい合うのはノエルとシルヴェルト。
エルミナは少し離れた場所で静かに見守っている。
双子も興味深そうに眺めていた。
「まさかお前と戦うことになるとはな」
シルヴェルトが鼻で笑う。
「私は割と予想してた」
ノエルは肩を竦めた。
「昔からそういうやつだったし」
「相変わらず生意気だ」
「それはお互い様でしょ」
二人の間に緊張が走る。
やがてシルヴェルトが細剣を抜いた。
「一つ言っておく」
その顔には余裕がある。
「精霊は使わん」
レオンたちが少し反応する。
「使わない?」
ガイウスが首を傾げた。
シルヴェルトは鼻で笑う。
「闇持ち相手に精霊の力など必要ない。それとも最初から全力で来て欲しいのか?」
完全に見下していた。
ノエルは呆れたようにため息を吐く。
「その性格、本当に変わらないね」
「始めてください」
ルシアンの声が響いた。
次の瞬間、二人が同時に動く。
先に仕掛けたのはシルヴェルト。
細剣による高速の突き。
だがノエルの姿はそこにない。
「遅い」
横から声が聞こえた。
短剣が振るわれる。
シルヴェルトが慌てて受ける。
甲高い金属音。
「ちっ」
シルヴェルトが舌打ちした。
速い。
想像以上に速い。
ノエルは風属性による身体強化を得意としている。
そこへ斥候として鍛え上げた技術が加わる。
一撃離脱、死角からの奇襲。
相手を翻弄する戦い方。
「どうしたの?」
ノエルが笑う。
「昔みたいに叩いてこないの?」
「黙れ!」
シルヴェルトが剣を振るう。だが当たらない。
ノエルは紙一重で躱し続ける。
そして短剣が閃いた。頬が浅く切り裂かれ、赤い線が走る。
シルヴェルトが固まった。頬から血が流れる。
「は?」
信じられなかった。
自分がノエルごときに傷をつけられた。
「意外と大したことないじゃん」
ノエルが挑発する。
その瞬間、シルヴェルトの顔が歪んだ。
「貴様ァ!!」
魔力が爆発する。風が渦巻いた。
今までとは明らかに違う。
「おい」
ガイウスが眉をひそめる。
「精霊使ってないか?」
「使っているな」
テオドールが呆れたように言う。
シルヴェルトの背後、風の中位精霊が姿を現していた。
ノエルも苦笑する。
「使わないんじゃなかったの?」
「黙れ!!」
風刃が放たれる。
ノエルが飛び退く。
だが先程までの余裕はない。
中位精霊の補助を受けたシルヴェルトは別格だった。
速度、威力、魔法の規模。
全てが一段階上がっている。
ノエルも闇魔法を織り交ぜながら応戦する。
だが押され始めた。
実力差が少しずつ現れる。
そして、ついに隙を突かれた。
風の衝撃が直撃する。
「っ!」
ノエルが吹き飛ばされ、地面を転がる。
立ち上がろうとするが足が震えた。
「終わりだ」
シルヴェルトが近付く。
顔には勝者の余裕はない。
あるのは怒りだけだった。
「よくも……!」
ノエルは苦笑する。
「結局使ったね」
「黙れ!」
シルヴェルトが剣を振り下ろす。
その瞬間。
キィンッ!!
鋭い金属音が響いた。
「なっ――」
シルヴェルトの目が見開かれる。
振り下ろした剣は途中で止められていた。
目の前にはルシアン。
「そこまでです」
静かな声だった。
シルヴェルトはルシアンを見る。
(俺の攻撃を……簡単に止めただと……?)
一瞬だけ驚愕が浮かぶ。
だがすぐに不機嫌そうな表情へ戻った。
「……ちっ」
勝負はついている。
これ以上続ける意味もない。
シルヴェルトは剣を引いた。
「くだらん」
苛立たしげに倒れたノエルを見下ろす。
「次はもっと無様に負けろ」
そう吐き捨てると背を向けた。
「行くぞ」
エルミナに声をかける。
エルミナは静かに頷き、その後を追った。
二人の姿が消える。
「大丈夫ですか?」
フィアナが駆け寄る。
「んー」
ノエルは仰向けになったまま空を見る。
「悔しい」
素直な感想だった。
だが、その顔は意外と晴れやかだった。
「でも」
ゆっくり起き上がる。
「ちょっとスッキリした」
「そうか」
レオンが笑う。
「何か掴めた気もするし」
ノエルは立ち上がった。
負けた。だが得たものもある。昔なら逃げていたかもしれない。
それでも今は違う。次に戦えばもっとやれる。
そんな確信があった。
「さて」
リリスが楽しそうに笑う。
「次は私たちかな?」
リリアも扇子を広げるような仕草をする。
「首席様のお手並み拝見ですわ」
視線がセシルへ向く。
次の勝負が始まろうとしていた。




