第283話
第283話
二年生になってから早くも二週間が経っていた。
授業、訓練、自主練習、遠征学習へ向けた準備。
Sクラスの面々は相変わらず忙しい日々を送っていた。
勇者パーティも例外ではない。
それぞれが休暇中に得た経験を糧にしながら、更なる成長を目指していた。
そんなある日のことだった。
授業を終えたレオンたちは廊下を歩いていた。
「もう二週間か」
ガイウスが伸びをする。
「早いな」
「遠征学習までもうすぐだ」
テオドールが言う。
「今年はどこに行くんだろうね」
ノエルが肩を竦めた。
そんな話をしていると。
「へぇ」
聞き覚えのない声が響いた。
「これが勇者様なんだ」
レオンたちが振り返る。
そこにいたのは二人の少女だった。
顔立ちはよく似ている。
双子だろう。
一人は赤みがかった髪。
もう一人は淡い銀色の髪。
「誰だ?」
レオンが首を傾げる。
「失礼ね」
姉の方が優雅に笑う。
「名乗って差し上げましょうか。リリアですわ」
「リリスだよ」
妹が続けた。
「へぇ」
レオンが頷く。
「噂の双子か」
「噂になってるんだ」
リリスが楽しそうに笑った。
「まあ当然ですわね」
リリアが胸を張る。
「それで?」
ノエルが面倒そうに聞く。
「何の用?」
リリアはレオンを見た。
そして。
「勇者というものがどれほどの人物か見に来ましたの」
「結果は?」
レオンが笑う。
リリアはため息を吐いた。
「大したことなさそうですわね」
「おい」
ガイウスが反応する。
「見ただけで分かるのかよ?」
「少なくとも期待外れね」
リリスは肩を竦める。
「ねぇ、お姉様」
「ええ」
リリアも頷いた。
「もっと凄いのかと思っていたのに」
「ただの人じゃん」
明らかな挑発だった。
だがレオンは苦笑するだけだった。
「まだ何もしてないだろ」
「それもそうですわね」
リリアはあっさり認めた。
「ですが、今のところはその程度ですわ」
その時だった。
「はぁ……」
ノエルが深いため息を吐く。
「付き合いきれない」
そして踵を返した。
「帰る」
だが。
「久しぶりだな」
前方から別の声が聞こえ、ノエルの足が止まる。
現れたのは二人。長い耳に整った容姿のエルフだった。
シルヴェルトとエルミナ。
「……最悪」
ノエルが本音を漏らす。
シルヴェルトは鼻で笑った。
「相変わらず陰気だな」
「会って早々それ?」
ノエルが皮肉っぽく返す。
「成長してないね」
「それはこちらの台詞だ」
シルヴェルトが見下すような視線を向ける。
「闇持ち」
空気が少しだけ張り詰める。
レオンたちも異変を察した。
「シルヴェルト」
エルミナが小さく名前を呼ぶ。
だが止める気はないらしい。
シルヴェルトは構わず続ける。
「森を出て少しはマシになったかと思ったが、相変わらずだな」
「残念だったね」
ノエルも笑う。
「あんたと違って私は楽しくやってるよ」
シルヴェルトの眉が僅かに動く。
一触即発、そんな空気だった。
だが。
「……?」
シルヴェルトが突然レオンを見た。
正確にはその肩付近。
何かを見ている。
「どうした?」
レオンが聞く。
シルヴェルトは驚いたような顔をしていた。
「何故……」
「何故、光の下位精霊が人間についている?」
一同が固まる。
精霊が見える者は少ない。
そしてシルヴェルトは確かに見ていた。
レオンの傍らに漂う光の下位精霊を。
「精霊?」
ガイウスが首を傾げる。
「見えるのか?」
テオドールが聞く。
「当然だ」
シルヴェルトは即答した。
「私は風の精霊と契約している」
その時だった。
「ちょっと!」
リリスが叫んだ。
「無視しないでくれる?」
「そうですわ」
リリアも不満そうだ。
「先に話しかけたのは私たちですのよ?」
「お前たちには興味ない」
シルヴェルトが即答する。
「はぁ!?」
リリスが怒る。
「何なのこいつ!」
さらに空気が騒がしくなった。
「何だこの状況……」
ガイウスが頭を抱える。
「面倒だな」
テオドールがため息を吐く。
その時。
「何をしているのですか」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこにはセシルが立っていた。
「また面倒な奴が来た」
ノエルが呟く。
セシルは周囲を見回した。
双子、エルフ二人、勇者パーティ。
状況を一瞬で理解する。
「廊下で騒ぐのはやめてください」
真面目な声だった。
「別に騒いでませんけど?」
リリスが言う。
「十分騒がしいです」
即答。
リリスがむっとする。
「それと」
セシルはシルヴェルトを見る。
「無意味な挑発もやめてください」
「君に指図される覚えはない」
シルヴェルトが言う。
「あります」
セシルは真顔だった。
「少なくとも迷惑です」
一瞬だけ沈黙。
そして。
「はぁ……」
ノエルがため息を吐く。
「ややこしくなってきた」
「同感だ」
テオドールも頷いた。
レオンは苦笑し、ガイウスは頭を抱え、フィアナは困ったように微笑む。
新一年生たち。
どうやら今年もアーカディアは平穏とは程遠いらしかった。




