第282話 sideフィアナ&セシル
第282話 sideフィアナ&セシル
勇者パーティと別れた後。
セシルはフィアナと並んで学園の敷地を歩いていた。
久しぶりに再会したフィアナ。
そして今日初めて会った勇者パーティ。
頭の中で今日の出来事を整理する。
レオン、ガイウス、テオドール、ノエル。
彼らはフィアナから聞いていた通りの人物だった。
勇者らしい真っ直ぐさを持つレオン、仲間思いのガイウス、優秀な貴族の子息であるテオドール、少し捻くれているが面倒見の良さそうなノエル。
どれも大きな違いはなかった。
だが、一人だけ違う者がいた。
銀髪の少年、ルシアン。
「フィアナ様」
セシルが口を開く。
「なんですか?」
フィアナが微笑みながら振り返る。
「――あの男は何者ですか?」
フィアナが少しだけ首を傾げた。
「あの男というのは、もしかしてルシアンのことですか?」
「そうです」
セシルは即答した。
「この学園へ来るにあたって、在籍している生徒についてはある程度調べました」
フィアナを守る聖騎士候補として当然のことだった。
特にSクラスの生徒は全員確認している。
「ですが、ルシアンという人物だけはよく分かりませんでした。幼少期に魔族によって故郷が壊滅的な被害を受け、現在の家族は家督を継いだ兄のみ。それ以外に特筆すべき情報はほとんどありません」
不自然だった。Sクラス十三位のそれなりに優秀な生徒のはずなのに、情報が少なすぎる。
「ですが」
セシルは続ける。
「今日実際に見て確信しました。彼は私より強いですね?」
フィアナは少しだけ考える。
そして素直に頷いた。
「そうですね。おそらくセシルより強いと思います」
セシルは予想していた。
だが次の言葉は予想外だった。
「レオンよりも強いですから」
思わず足が止まりそうになる。
「勇者よりもですか……?」
「ええ」
フィアナは当然のように答えた。
「普段、私たちのパーティの指揮を取っているのはルシアンです。レオンを指導しているのもルシアンですよ」
セシルはしばらく言葉を失った。
勇者を指導している。
それはつまり、少なくとも勇者と同等以上の実力を持つということだ。
「では何故」
セシルは疑問を口にする。
「十三位などという順位なのですか?」
「目立ちたくないそうです」
「それだけの理由で……」
理解できなかった。
アーカディアは実力主義だ。強者なら上を目指す。
それが当然だと思っていた。
フィアナは少しだけ苦笑する。
「それだけではないと思いますけどね。ルシアンは秘密が多いですから」
その言葉にセシルは頷く。
まさにその通りだ。
「ですが」
フィアナは続けた。
「いつも助けてくれるのはルシアンです。合同遠征の時も、大規模試験の時も、私たちは何度もルシアンに助けられました」
その声音には確かな信頼があった。
セシルにはそれが分かる。だからこそ余計に気になった。
「しかし」
セシルは静かに言う。
「彼からは本当に微かですが、魔物の気配を感じました」
フィアナは驚かなかった。
むしろ当然のように頷いた。
「そうですね。二年生になる少し前くらいから感じられるようになりました」
セシルは思わず眉をひそめる。
「でしたら余計に怪しいです。私はあの男を信用できません」
フィアナは少しだけ空を見上げた。
夕焼けが広がっている。
「セシル」
「はい」
「私もルシアンには秘密があると思っています」
その言葉にセシルは頷く。
当然だ。
秘密がないはずがない。
「ですが」
フィアナは穏やかに笑った。
「私はルシアンを信頼しています」
「何故ですか?」
セシルには理解できなかった。
フィアナは少しだけ考える。
そして静かに答えた。
「何度も助けてもらったからです」
「それだけですか?」
「それだけです」
迷いのない声だった。
「ルシアンは私たちに嘘をつくことがあります。隠し事もしています。ですが…」
フィアナは立ち止まった。
「少なくとも仲間を見捨てたことは一度もありません」
セシルは黙る。
「それに」
フィアナは少しだけ笑う。
「ルシアンは優しいですよ」
「そうは見えませんでした」
「ふふ」
フィアナが笑った。
「それは分かります。本人も隠そうとしていますから」
セシルは納得できない。
だが、フィアナがそこまで言うのなら。
少なくとも今すぐ敵視するつもりはなかった。
もっと見極める必要がある。
本当に信用していい相手なのか。
それとも、警戒すべき存在なのか。
セシルは夕焼けの空を見上げながら、静かにそう考えていた。




