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果てなき世界  作者: 影川明空人
第6章 学園2年目
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第281話

第281話


 気付けば窓の外は夕焼けに染まっていた。


 新年度初日ということもあり、今日は早めの解散である。


 レオンたちも帰る準備を始めていた。


「じゃあまた明日な」


「ああ」


「またな」


 それぞれが教室を後にしていく。


 そんな中、セシルは当然のようにフィアナの隣へ移動した。


「フィアナ様、お送りいたします」


「大丈夫ですよ?」


「いえ」


 セシルは首を横に振る。


「これも私の役目です」


 真面目だった。


 フィアナも苦笑しながら諦める。


「分かりました。ありがとうございます」


 その時だった。


 セシルの視線が一瞬だけルシアンへ向く。


 本当に一瞬、しかしルシアンは気付いた。


(警戒されていますね)


 自分の力は隠しているが、感覚の鋭い者は微かに違和感を覚えることがある。


 セシルもその類なのだろう。


 もっとも、今の段階ではあくまで漠然とした違和感。それだけだ。


 やがてフィアナとセシルも教室を後にした。


 レオンたちも帰っていく。


 そして、最後の方まで残っていたノエルが教室を出ようとしたところで。


「ノエル」


 ルシアンが声をかけた。


「なに?」


 振り返るノエル。


 ルシアンは静かに言った。


「先ほどのエルフのお二人の話が出た時の反応が気になったので」


 ノエルの表情が少しだけ曇る。


「ルシアンには関係ないでしょ」


「そうかもしれませんね」


 ルシアンは否定しない。


「ですが、だからこそ話を聞くことはできます。ノエルはどうにかして欲しいわけではないのでしょう」


 それはノエルの顔を見ればわかった。


「ただ、今のあなたは負の感情が溜まっているように見えます。はけ口くらいにはなれますよ」


 ノエルは黙る。


 少しだけ視線を逸らした。


 数秒の逡巡。やがて観念したように息を吐く。


「……誰にも言わないでよね」


「もちろんです」


 ルシアンは頷いた。


 ノエルは廊下の窓にもたれかかった。


「私の魔法の適性は知ってるでしょ」


「風と闇ですね」


「そう」


 ノエルは小さく頷く。


「エルフで闇に適性を持つ人はほとんどいない。大半は風に加えて水とか光とかが多い。過去に闇に適性を持ったエルフがいなかったわけじゃない…」


 そう言いいながらノエルはどこか遠い目をしていた


「でもそういう奴らは大抵、森に災いをもたらしてきた」


 ルシアンは黙って聞く。


「私の母は森の中でもかなり血筋が良かった。みんなからも慕われてた」


 少しだけ寂しそうに笑った。


「そんな母は私を産んですぐ死んだ。そして産まれた私は闇に適性を持ってた」


 静かな声だった。


「だから私は疎まれた。大人たちは露骨には何もしなかったけどね。でも子供は違う、大人を見て育つから、同年代の連中も私を仲間外れにした」


 ルシアンは何も言わない。


 ただ聞く。


「察するに、お二人も……」


「そう」


 ノエルが即答した。


「シルヴェルトとかには毎日のように訓練だって言われて木剣で叩かれてた」


 その言葉にルシアンの目が僅かに細くなる。


「エルミナの方は?」


「後ろで見てただけ」


 ノエルは肩を竦めた。


「止めもしなかったけどね」


 それもまた答えだった。


「ここへ来る前には師匠に拾われてたし、もう森も出てた。だからあいつらと会うのは久しぶり。でも嫌なものは嫌」


 ルシアンは静かに頷く。


「大変だったんですね」


「まあね」


 ノエルは苦笑した。


「ここへ来るまでは師匠以外信じられなかった。でも…」


 少しだけ表情が柔らかくなる。


「フィアナやみんなに会ってからは変わったかな。今は楽しいし、みんなのことなら信じてもいいと思ってる」


 ルシアンは少しだけ微笑む。


「私のこともですか?」


 ノエルは少し考えた。


「ルシアンはよく分からない」


 予想通りの答えだった。


「指示は的確だし、おかげで助かったことも多い。でも…」


 ノエルがルシアンを見る


「私以上に秘密が多い」


 ルシアンは黙る。


「合同遠征の時もそう。みんな限界だった。でもルシアンだけは余裕があったように見えた。精霊も見えるみたいだし、底が見えない」


「そうですか」


 ルシアンは小さく呟く。


 ノエルは真っ直ぐ彼を見る。


「信頼はしてない、でも信用はしてる」


 ルシアンは少し意外そうな顔をした。


「違いがありますか?」


「ある」


 ノエルは頷く。


「ルシアンが何を考えてるかは分からない。だから信頼はしてない。でも私たちを害するつもりがないのは分かる。それに今まで何度も助けられた。だから信用はする」


 ルシアンは少しだけ目を伏せた。


「なるほど」


 ノエルは笑う。


「話が逸れたけど、あいつらのことは嫌い。でも大丈夫。前みたいに攻撃されても今なら負ける気はしない」


 その言葉には確かな自信があった。


 一年前のノエルではない。勇者パーティとして戦い続けた一年で、彼女は確実に強くなっている。


「そうですね」


 ルシアンは頷く。


「今のノエルなら簡単には負けないでしょう」


「でしょ?」


 少しだけ得意げに笑うノエル。


 その笑顔を見て、ルシアンも僅かに表情を和らげた。


 やがて二人も帰路につく。


 新年度初日、それぞれが新たな一年へ向けて歩き始めていた。


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