第279話
第279話
新年度初日。
長い休暇を終え、再びアーカディア学園に生徒たちが集まっていた。
Sクラスの教室も例外ではない。
久しぶりに顔を合わせる生徒たちの間では、あちこちで会話が交わされている。
そんな中、勇者パーティの面々も自然と集まっていた。
「結局、グランヴェルたちはまだ戻ってないんだな」
ガイウスが空席を見ながら言う。
教室には三つの空席があった。
グランヴェル、ヴァルク、ディアナ。
三人は修行の旅へ出たまま、まだ戻ってきていない。
「少し心配ですね」
フィアナが小さく呟く。
「でもヴァルクもいるし、大丈夫だろ」
レオンが笑う。
「まあ、あいつらなら無茶してても生きて帰ってきそうだしな」
ガイウスも肩を竦めた。
そんな話をしていると教室の扉が開く。
レオニードだった。
自然と教室が静まり返る。
「全員いるな」
教室を見渡した後、レオニードは口を開いた。
「まず連絡事項だ。グランヴェル、ヴァルク、ディアナの三名だが、修行先で予定が長引いている。数日遅れて登校する予定だ」
それを聞いてレオンたちは少し安心する。
少なくとも無事らしい。
「次だ」
レオニードは教室全体へ視線を向けた。
「今年もクラスの入れ替えが行われた。Sクラスから四名が降格、Aクラスから三名が昇格。現在のSクラスは二十四名だ」
教室後方には見慣れない顔が三人。
逆に去年までいた何人かの姿はない。
アーカディアでは珍しいことではない。
実力主義。
ただそれだけだ。
「そして」
レオニードが続ける。
「お前たちなら分かっているだろうが、二ヶ月後には遠征学習がある」
教室の空気が少しだけ引き締まった。
「昨年より難易度は上がると思え、以上だ」
それだけ言うとレオニードは教室を出て行った。
「相変わらず説明が短いな」
ガイウスが苦笑する。
「必要なことは伝えている」
テオドールが言った。
「まあ、その通りだけどな」
レオンも笑う。
そんな風に雑談していると、教室の入り口で誰かが立ち止まった。
金髪の少年だった。
制服は着崩し一つなく、姿勢も真っ直ぐ。
そのまま迷うことなくフィアナの元へ歩いてくる。
そして綺麗な所作で一礼した。
「フィアナ様」
その言葉に勇者パーティの視線が集まる。
フィアナは少し驚いた表情を浮かべた。
「セシル」
「お久しぶりです」
少年――セシルは微笑む。
「無事に入学できましたので、ご挨拶に参りました」
「そうですか」
フィアナも柔らかく微笑んだ。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
そのやり取りを見てガイウスが小声で尋ねる。
「知り合いか?」
「同じ聖国出身です」
フィアナが答える。
「幼い頃から一緒でした」
「なるほどな」
レオンが頷く。
セシルは改めて勇者パーティへ向き直った。
「失礼しました。私はセシルと申します」
丁寧に一礼する。
「聖国リュミエルより参りました。よろしくお願いいたします」
礼儀正しい。
あまりにも礼儀正しい。
思わずガイウスまで背筋を伸ばしてしまうほどだった。
「レオンだ!」
「よろしくな!」
レオンが笑顔で手を差し出す。
セシルも握手に応じた。
「皆様のお話はフィアナ様から伺っております」
「え?」
ガイウスが目を瞬く。
「俺らの話?」
「はい」
セシルは頷いた。
「レオン様、ガイウス様、テオドール様、ノエル様、ルシアン様」
「皆様のお話を聞いております」
フィアナが少しだけ視線を逸らした。
「話題に出たことがあっただけです」
「絶対それだけじゃないでしょ」
ノエルが笑う。
セシルは真面目な顔のまま続けた。
「レオン様は真っ直ぐで人を導く力のある方」
「ガイウス様は仲間思いで頼りになる方」
「テオドール様は非常に優秀で努力を惜しまない方」
「ノエル様は観察力に優れ、冷静な判断ができる方」
そして最後にルシアンを見る。
「ルシアン様は非常に優秀で、仲間からの信頼も厚い方だと伺っております」
ルシアンは特に反応しない。
ガイウスは吹き出した。
「フィアナってそんな風に思ってたのか」
「当然です」
フィアナは不思議そうに首を傾げる。
「皆さんは大切な仲間ですから」
一瞬だけ教室が静かになる。
そしてレオンが照れくさそうに笑った。
「まあ、俺もみんなのことはそう思ってるけどな」
「はい」
フィアナも頷く。
セシルはそんな様子を見ながら静かに微笑んでいた。
フィアナが大切にしている仲間たち。
それがどんな人物なのか。
少しだけ理解できた気がした。
そしてルシアンは静かにセシルを観察していた。
強い。
少なくとも一年生としては破格だ。
グランヴェルが入学した頃に匹敵する。
レイヴンの情報で知っていたが、次期聖騎士筆頭候補という肩書きは伊達ではないらしい。
新たな一年、新たな後輩たち。
アーカディアの二年目が静かに幕を開けた。




