第278話 side魔族
第278話 side魔族
魔族領にある魔王城。
その一角にある執務室で、一人の男が書類へ目を通していた。
ガルドレイン。
魔族四天王の一人、その中でも軍の統率を担う存在だった。
武力だけならドラクス、策謀ならイリシアだが、魔王軍全体をまとめ上げる能力においては、ガルドレインが最も優れている。
そんな彼が今、注力している案件があった。
世界に存在する十七体の災厄、国をも滅ぼす怪物たち。
魔王軍は現在、その一部を味方へ引き入れることに成功していた。
紅蓮蛇ナーガル、魔眼獣バロール、灰翼鳥シームルグ、霧哭姫モルガナ。
いずれもSSSランク。
世界でも指折りの怪物たちだ。
さらに現在は、白骸王ノスフェラ。
十七厄災の中でも最上位に位置する存在との交渉が続いている。
もし成功すれば魔王軍の戦力は大きく跳ね上がる。
そんなことを考えていた時だった。
コンコン。
扉が叩かれる。
「入れ」
ガルドレインが答える。
部下の魔族が慌ただしく入ってきた。
「ガルドレイン様!報告があります!」
その表情を見て、ただ事ではないと察する。
「何だ」
「地裂獣ベヒモスについてです」
その名を聞いた瞬間、ガルドレインの視線が鋭くなった。
「続けろ」
「はっ」
部下は深呼吸してから報告を始める。
「北方を移動していた地裂獣ベヒモスですが――」
「何者かとの戦闘を確認。その後、敗北しました」
部屋が静まり返る。
ガルドレインは何も言わない。
部下は続ける。
「戦闘の衝撃が大きすぎて接近は不可能でした。観測できたのは遠方からのみでしたが、戦闘は数日続いたものと推測されます。そして戦闘終了後――」
そこで一度言葉を区切る。
「ベヒモスは跡形もなく消滅していました」
沈黙。数秒、十秒。
部下は冷や汗を流す。
やがて。
「そうか」
ガルドレインは静かに答えた。
声色は変わらない。
だが部下は知っている。
この男が驚いていることを。
「引き続き調査を行え。戦闘地点周辺、目撃情報、魔力痕跡。何でもいい、必ず情報を集めろ」
「はっ!」
部下は一礼して退出した。
扉が閉まる。
部屋には再び静寂が戻った。
一人になったガルドレインは椅子へ深く腰掛ける。
「……ベヒモスが負けた、か」
小さく呟く。
地裂獣ベヒモス。
十七厄災の一角。
単純な戦闘能力だけなら最強格ではない。
だが異常な耐久力、大地からの魔力吸収、驚異的な再生能力。
それらを考慮すると討伐難易度は極めて高い。
実際SSS中位という評価以上に厄介な相手だった。
「並大抵の攻撃では倒せない」
傷を付けても回復する。
魔力切れを狙っても大地そのものが補給源。
だからこそ面倒だった。
「十七厄災同士の戦いか……?」
可能性の一つ。
だが違和感がある。
縄張り争いならまだしも、跡形もなく消えるだろうか。
ガルドレインは目を閉じる。
そしてもう一つの可能性を考える。
「それとも、俺の知らない強者がいるのか」
その方が厄介だった。
十七厄災ならまだ理解できる。
だが未知の強者は違う。
情報がなく、予測できない、対応できない。
戦争において最も危険なのは未知だ。
「何にせよ」
ガルドレインは立ち上がる。
「ベヒモスを倒すほどの存在がどこかにいる」
その事実だけは確かだった。
不確定要素。
それは戦略を狂わせる。
できる限り排除したい。
そのためには。
「やはり必要だな」
ガルドレインは窓の外を見る。
遥か遠方にある死者の国とも呼ばれる土地。
そこにいる存在を思い浮かべる。
白骸王ノスフェラ。十七厄災最強格、SSS上位。
未だ魔王軍へ加わっていない怪物。
「必ず仲間にしたい」
部下に任せるつもりだったが考えを改める。
この件は重要だ。自ら動く価値がある。
「俺が行くか」
ガルドレインは静かに呟いた。
未知の脅威が現れた今。
魔王軍もまた、次の一手を打とうとしていた。
第5章終わりです。
ストックが尽きかけているので少しお休みします。
頑張って次回は7月1日0時に更新できたらと思います。




