第276話
第276話
ベヒモス討伐後。
ルシアンとエイルは急ぎアーカディアへの帰路についていた。
来る時と同じく、エイルの風魔法による補助を受けながらの高速移動。
途中で休息は取るものの、必要最低限だ。
既に脅威は排除された。
ならば一刻も早く戻るべきだった。
「しかし本当に倒しちゃったわね」
移動中、エイルが呟く。
「倒せなければ困ります」
「そういう問題じゃないのよ」
エイルは苦笑した。
十七厄災、それも地裂獣ベヒモス。
普通なら国単位で対処を検討する相手だ。
それを二人で処理してしまった。
正確にはルシアン一人だが。
「ヒューギル様も驚くでしょうね」
「既に予想していると思います」
「どうかしら」
エイルは笑う。
「ベヒモスを吸収した結果までは予想してないと思うわよ」
ルシアンは何も答えなかった。
それからさらに数日、ようやくアーカディアが見えてくる。
学園の姿を確認した時、エイルが小さく息を吐いた。
「やっと帰ってきたわね」
「そうですね」
そのまま二人はヒューギルの部屋へ向かう。
扉を開ける。
中では老人がいつものように机へ向かっていた。
「戻りました」
ルシアンが告げる。
ヒューギルは顔を上げた。
「ご苦労だった」
その一言だけだった。
だがその表情を見る限り、既に結果は察していたらしい。
「ベヒモスは?」
「討伐しました」
「そうか」
短いやり取り。
ヒューギルらしい。
ただし、隣のエイルは違った。
「そうかじゃないですよ。十七厄災を倒したんですよ?」
「予想の範囲内だ」
ヒューギルは小さく笑った。
そして改めてルシアンを見る。
「よくやった。約束通りだ」
ルシアンは小さく頷いた。
その後、ヒューギルは約束していた対価を支払った。
エルフの大森林について、そして神器について。
ルシアンは静かに耳を傾ける。
知らなかった情報、予想していた情報、様々だった。
だが今は詳細を語る必要はない。
重要なのは、確かにルシアンがその知識を得たということだった。
話が終わる頃には、既に日も傾いていた。
「これで約束は果たした」
ヒューギルが言う。
「ありがとうございます」
ルシアンは素直に頭を下げた。
エイルも伸びをする。
「じゃあ私も報告書を書かなきゃね。少し面倒だけれど」
「仕事だ」
「知ってますよ」
そんなやり取りを聞きながら、ルシアンは部屋を後にした。
廊下を歩く。
久しぶりのアーカディア。
そして、ふと違和感に気付く。
「そういえば」
ルシアンは立ち止まった。
休暇は二週間だったはずだ。
まだ時間は残っていると思っていた。
だがベヒモスとの戦い。
往復の移動、力の制御で思った以上に時間が経っていた。
改めて日付を確認する。
そして。
「……なるほど」
小さく呟いた。
新年度開始まで。
残り三日、休暇はいつの間にか終わろうとしていた。
ベヒモス討伐という大仕事を終えたばかりだというのに、時間は待ってくれないらしい。
新年度、そして新入生。
アーカディアでは既に新たな一年が始まろうとしていた。




