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果てなき世界  作者: 影川明空人
第5章 学園1年目 激動編
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第275話

第275話


 地裂獣ベヒモスは動かない。


 三日三晩に及ぶ死闘の末、十七厄災の一角はついにその命を終えた。


 周囲には無数の戦闘痕。


 砕けた山、抉れた大地。まるで天災が暴れ回った後のような光景だった。


「終わったわね」


 エイルが近付いてくる。


 疲労はあるが大きな怪我はない。


 今回の戦いで彼女は補助と警戒を担当していた。


 それでも三日間、SSSランク同士の戦いに付き合ったのだ。


 普通の人間なら近付くだけで死んでいる。


「ええ」


 ルシアンは静かに答えた。


 そして巨大な亡骸へ視線を向ける。


 まだ終わりではない。


 ここからが本番だった。


「始めるのね」


 エイルが言う。


「はい」


 ルシアンは頷いた。


 ヒューギルは事前にエイルへある程度の事情を説明している。


 だから止めない、止める理由もない。


 ルシアンが右手を前へ出す。


 その瞬間、足元から影が広がった。


 黒い闇が大地を這う。


 やがて巨大なベヒモスの亡骸を包み込んでいく。


 イクリプス、吸収の力。


 本来なら存在するはずのない異質な能力。


 影がベヒモスを喰らう。


 肉を、骨を、魔力を、存在そのものを、全てを取り込んでいく。


 次の瞬間だった。


「……っ!」


 ルシアンの表情が僅かに歪む。


 予想はしていたが、想像以上だ。


 十七厄災、その名は伊達ではない。


 巨大な魔力、生命力、存在感。


 それら全てが一気に体内へ流れ込んでくる。


 大地が震え、魔力が漏れる。


 それだけで周囲数十メートルの地面が砕けた。


「ルシアン!」


 エイルが警戒を強める。


「大丈夫です」


 そう答える。


 だが全く大丈夫ではなかった。


 力が暴れている。


 制御できない。


 ベヒモスの力が強すぎる。


「これは……」


 ルシアンが小さく呟く。


「少し時間が必要ですね」


「少しじゃ済まない気がするけど」


 エイルは苦笑した。


 空気そのものが震えていた。


「一日ください」


「そのつもりよ」


 エイルが頷く。


「その間は私が守るから」


「お願いします」


 ルシアンはその場へ座って目を閉じる。


 意識を内側へ向け、暴れる力を抑える。


 馴染ませ、統合する。


 長い時間がかかった。


 翌日になってようやく、全てが静かになった。


 ルシアンがゆっくりと目を開く。


 世界が違って見えた。


 視界、感覚、魔力。


 全てが以前とは別物だった。


「終わった?」


 近くの岩に腰掛けていたエイルが尋ねる。


「ええ」


 ルシアンは立ち上がる。


 軽く拳を握る。以前とは比較にならない。


 ベヒモスの生命力、膨大な魔力、大地との親和性。


 その全てが己の一部になっていた。


「どう?」


 エイルが聞く。


 ルシアンは少し考える。


「かなり強くなりました」


「だからどのくらいよ」


 ルシアンは空を見上げた。


「おそらく、SSS上位には届いているかと」


 沈黙。


 エイルが固まった。


「……え?」


 珍しく間の抜けた声だった。


 ルシアンは真面目な顔のまま続ける。


「正確には戦ってみないと分かりませんが、ベヒモス吸収前よりは確実に強くなっています」


「いや、ちょっと待ちなさい」


 エイルが立ち上がる。


「SSS上位ってあの?」


「他にありますか?」


「あるわけないでしょ!」


 思わず声が大きくなる。


 守護者らしからぬ反応だった。


「ヒューギル様ですらSSS下位なのよ!?魔王クラスじゃない!」


 ルシアンは少し考える。


「そうですね」


「そうですねじゃないの!」


 エイルは頭を抱えた。


 守護者として長く生きてきた。


 だがSSS上位など数えるほどしか知らない。


 魔王、そして十七厄災の上位個体。


 その程度だ。そんな領域へ、目の前の少年が到達したと言っている。


 しかも本人は大して驚いていない。


「本当にとんでもない子ね……」


 エイルが呆れたように呟く。


 そして遠い目をした。


「これヒューギル様に報告したら頭抱えるんじゃないかしら」


「何故ですか?」


「自覚ないのね……」


 エイルは深くため息を吐いた。


 十七厄災を討伐し、その力を吸収し、守護者最強格すら超えかねない領域へ到達する。


 そんな存在が学園で十三位をやっている。


 色々おかしい。


 だが、少なくとも任務は成功だった。


 地裂獣ベヒモスは討伐された。


 アーカディアも、聖国リュミエルも救われた。


 そしてルシアンはまた一歩、人の領域から遠ざかったのだった。


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