第271話
第271話
ヒューギルの言葉を聞いたルシアンは、深くため息を吐いた。
「嫌です」
即答だった。
エイルが少し笑う。
ヒューギルは予想通りといった顔だった。
「理由を聞こう」
「目立ちたくありません」
ルシアンは真顔で答えた。
「十七厄災の討伐など目立つにも程があります」
「誰も知らなければ目立たないぞ」
ヒューギルが返す。
「そういう問題ではありません」
ルシアンは頭を押さえた。
面倒事の匂いしかしない。
ヒューギルは机を指で叩く。
「安心しろ。今回の件を把握している者はほとんどいない」
「ヒューギル様のカラスだけですか?」
「そうだ」
老人は頷く。
「人類側でベヒモスを観測しているのは今のところ我々だけだ。ルミナス騎士団も聖国、王国、帝国も知らん」
ルシアンは少し驚いた。
それほど秘匿されているとは思わなかった。
「魔族側は?」
エイルが聞く。
「知っている者はいるだろう。だが一握りだ」
ヒューギルは断言した。
「少なくとも大規模な動きは確認されていない」
つまり、まだ対処できる。
ルシアンは少し考え込んだ。
ヒューギルは続ける。
「放置した場合、最悪一ヶ月以内にアーカディアか聖国へ到達する。そうなれば甚大な被害が出る」
「……でしょうね」
ルシアンも否定しない。
地裂獣ベヒモス、名前だけではない。本当に災害そのものだ。
「ちなみに」
ルシアンが尋ねる。
「ベヒモスの強さは?」
ヒューギルとエイルが顔を見合わせる。
そして。
「SSS中位程だろうな」
ヒューギルが答えた。
部屋の空気が少し重くなる。
ルシアンは静かに目を閉じた。
予想通りだった。
十七厄災。
その名に相応しい。
「厄介ですね」
「そうね」
エイルが頷く。
「正直、私一人じゃ無理」
さらりと言う。
だが冗談ではない。
守護者の一人であるエイルがそう断言するほどの相手だ。
「時間稼ぎくらいならできると思うわ。でも討伐は無理ね。だからあなたを呼んだの」
ルシアンは小さくため息を吐く。
「目立ちたくないのですが」
「知ってるわ」
エイルは苦笑した。
ルシアンはしばらく考え込む。
放置はできない。
だが面倒だ。
非常に面倒だ。
「……条件があります」
ヒューギルが目を細める。
「聞こう」
「エルフの大森林、それと神器についての情報が欲しいです」
エイルが少し驚いたようにルシアンを見る。
ヒューギルは数秒だけ考えた。
そして頷く。
「承諾しよう」
「良いのですか?」
「構わん」
ヒューギルは即答した。
「お前ならいずれ知ることになる。ならば少し早いだけだ」
ルシアンは観念したように息を吐いた。
「わかりました。引き受けます」
その返答にヒューギルが満足そうに頷く。
エイルも立ち上がった。
「じゃあ準備しましょうか」
銀髪を揺らしながら軽く伸びをする。
「移動は私が担当するわ。少しでも早く追い付きたいもの」
「よろしくお願いします」
「ふふ」
エイルは少し笑った。
「主戦力は私じゃなくてあなただけどね」
「聞かなかったことにします」
「そういうところよ」
楽しそうに笑うエイル。
ヒューギルはそんな二人を見ながら言った。
「出発は今日だ。時間が惜しい」
「わかっています」
ルシアンは立ち上がる。
エイルも頷いた。
こうして二人はアーカディアを発つ。
目的地は魔族領。
十七厄災――地裂獣ベヒモスを止めるために。




