第269話
第269話
休暇初日、勇者パーティの面々は学園の中庭に集まっていた。
二週間という決して短くない休み。
何もしないで過ごすには惜しい期間だ。
「さて」
レオンが周囲を見回した。
「みんな何するんだ?」
最初に答えたのはテオドールだった。
「修行だな」
「当然だ」
即答だった。
合同遠征、大規模試験、この一年で多くの経験を積んだ。
だが、それ以上に自分の未熟さも知った。
立ち止まる理由はない。
「俺も鍛えるつもりだ」
ガイウスが頷く。
「もっと強くならねぇと」
「私もです」
フィアナが続く。
「できることを増やしたいと思っています」
ノエルも珍しく真面目な表情だった。
「私もかな。まだまだ足りないし」
自然と全員の意見がまとまる。
修行。
それ自体は決まった。
問題は方法だった。
「冒険者やるか?」
レオンが言う。
「冒険者?」
ガイウスが反応する。
「依頼受けて実戦経験を積むんだよ」
「確かに悪くありませんね」
フィアナも頷いた。
「実戦経験も積めますし、多少のお金にもなります」
「冒険者活動か」
テオドールも考える。
「悪くないな」
結果として、勇者パーティは休暇中、冒険者として活動することに決まった。
危険度の高すぎる依頼は避ける。
だが、ある程度の実戦は積む。
今の彼らにはちょうどいい。
「よし、決まりだな」
レオンが笑う。
そこでふと気付いた。
「ルシアンはどうするんだ?」
全員の視線が集まる。
ルシアンは少しだけ考えるような素振りを見せた後、
「私は別件があります」
と答えた。
「別件?」
「ええ」
それ以上は説明しない。
だが慣れたものだった。
ルシアンには時々そういうことがある。
深く聞いても答えない。
そして大抵の場合、聞かない方がいい。
「そうか」
レオンもそれ以上は追及しなかった。
「じゃあ終わったらまた合流だな」
「はい」
ルシアンが頷く。
「皆さんも気を付けてください」
「そっちこそな」
ガイウスが笑う。
「変なことに巻き込まれるなよ」
「それは難しいかもしれません」
真顔で返されて全員が少し笑った。
そして、勇者パーティはそれぞれの目的のために散っていく。
レオンたちは冒険者として。
ルシアンは別の用事のために。
仲間たちの姿が見えなくなった頃だった。
ひらり。
一羽の黒い影が空から降りてくる。
ルシアンの肩へ静かに止まった。
黒いカラス。
見慣れた存在だ。
「来ましたか」
カラスは小さく鳴く。
それだけで十分だった。
呼び出し。
送り主は決まっている。
ルシアンは歩き出した。
向かう先は学園長室ではない。
そのさらに奥にある限られた者しか立ち入れない空間。
守護者の長、ヒューギルの部屋だった。
廊下を進みながらルシアンは考える。
このタイミングでの呼び出し。
おそらく良い話ではない。
魔物の活性化、魔族の動き、合同遠征での襲撃。
世界は確実に騒がしくなっている。
そしてヒューギルがわざわざ自分を呼ぶ時は、大抵それなりに面倒な案件だ。
やがて一枚の扉の前へ辿り着く。
カラスが肩から飛び立った。
ルシアンは扉へ手をかける。




