第262話
第262話
三体の猿型魔物が倒れ、巨大な空間に静寂が戻った。
レオンは剣を収めながら周囲を見回す。
「全員無事か?」
「問題ない」
テオドールが答える。
ガイウスも肩を回した。
「少し疲れたけどな」
「怪我はありません」
フィアナも頷く。
ノエルも特に問題はなさそうだった。
ルシアンも周囲へ意識を向ける。
魔物の気配はない。
「安全です」
その言葉を聞いて全員がようやく緊張を解いた。
試験官たちも近付いてくる。
「見事だった」
グレイが短く評価する。
「助力なしで勝ち切るとはな」
リゼリアも少し感心した様子だった。
「正直、途中で介入する可能性も考えていましたが、杞憂だったみたいですね」
その時だった。
「あれ?」
ガイウスが大樹の根元を指差した。
そこには小さな宝箱が置かれていた。
今まで気付かなかった。
「宝箱?こんなところに?」
レオンたちも近付く。
未知の空間、未知の宝箱。
当然ながら警戒する。
「ノエル」
「わかってる」
ノエルがしゃがみ込み、宝箱を調べ始めた。
罠、魔法陣、毒針、爆発機構。
様々な可能性を確認する。
数分後、ノエルは立ち上がった。
「大丈夫、少なくとも罠の類はない」
全員が安堵する。
「じゃあ開けるぞ」
レオンが蓋を開く。
中に入っていたのは――
一つの指輪だった。
「指輪?」
ガイウスが首を傾げる。
「武器とかじゃないのか」
「魔道具かもしれませんね」
フィアナが言う。
しかし誰も正体が分からない。
そこで自然と視線が集まる。
「ルシアン、わかるか?」
レオンが尋ねた。
ルシアンは指輪を手に取る。
魔力を流す。
しばらく観察した後、口を開いた。
「おそらくですが、この指輪には魔力を溜め込む性質があります」
「魔力を溜め込む?」
テオドールが興味深そうに反応する。
ルシアンは頷いた。
「現時点ではどの程度の容量があるか分かりません。ですが……かなりの量が入りそうですね」
その言葉に試験官たちも指輪を確認する。
セイルが頷いた。
「俺も同意見だな。相当な量を蓄積できそうだ」
グレイも続く。
「かなり価値の高い魔道具だろう」
そこでレオンが試験官へ尋ねた。
「こういうのって貰ってもいいんですよね?」
セイルが笑った。
「ああ、今回のダンジョンで手に入れた素材なんかは学院で査定された後、換金してお前たちに渡る予定だ。欲しい素材やアイテムがあれば自分で確保して構わない。その場合は点数にならないだけだ」
「なるほど」
レオンが頷く。
するとルシアンが指輪を見ながら言った。
「この指輪はレオンが持つべきでしょう」
「俺?」
レオンが目を丸くする。
「あなたはいつも限界を超えます。そして最後には倒れてしまう。この指輪があれば補助になるはずです」
合同遠征の時も武闘大会の時もそうだった。
オーバードライブを使った後の反動は大きい。
予備の魔力があるだけでも状況は変わる。
「確かに」
フィアナが頷く。
「レオンさんが持つのが一番有効だと思います」
「俺も賛成だな」
ガイウスも同意した。
テオドールも異論はないらしい。
ノエルも肩を竦める。
「いいんじゃない」
こうして所有者は決まった。
レオンが指輪を受け取る。
そして右手にはめた。
「どうだ?」
ガイウスが聞く。
レオンは少し考えた後、
「なんとなくだけど、ちょっとずつ魔力が吸われてる感じがするな」
と答えた。
「自然に蓄積しているのでしょう」
ルシアンが説明する。
「魔力の流れを制御できれば、一度に多く送ることも可能ですし、逆に送らないことも可能なはずです」
レオンは試してみる。
しかし。
「多く送るのはできる。でも送らないのは無理だな」
少し困ったように言った。
するとルシアンは即答した。
「それはレオンの魔力操作が未熟なだけですね」
「うっ」
痛いところを突かれた。
「その指輪を使って魔力操作も鍛えてください。今後の課題です」
「わかったよ……」
レオンは苦笑した。
だが悪い気はしなかった。
強くなるために必要なことなのだから。
その後、一行はこの空間で野営することを決めた。
大樹の近くは比較的安全そうだった。
テントを張り、夕食を準備する。
食事を終えた後はいつもの振り返りだ。
今日の良かった点、改善点、戦闘中の動き。
それぞれが意見を出し合う。
そして最後に明日の予定を確認した。
レオンが全員を見る。
「イレギュラーなこともあったし、明日からは地上へ戻る方向で動こう」
誰も異論はなかった。
本来の予定は十分に達成している。
未探索領域まで発見した。
成果としては十分すぎる。
「帰りも気を抜かないように」
グレイが言う。
「ダンジョンは地上に出るまでが探索だからな」
全員が頷く。
こうして、勇者パーティのダンジョン実習は帰路へと入ることになった。
静かな大樹の下、彼らはそれぞれ明日に備えて眠りにつくのだった。




