第260話
第260話
崩れた壁の向こうへ、勇者パーティは慎重に歩みを進めていた。
記録にも存在しない未探索領域。
何が待ち受けているかわからない以上、警戒は最大限にしている。
最初は狭い洞窟だった。
岩肌が剥き出しになった通路が奥へと続いている。
深淵樹海の中とは思えない景色だ。
「樹海の中に洞窟か」
ガイウスが周囲を見回す。
「変だな」
テオドールも同意した。
「ダンジョンだからな」
ノエルが肩を竦める。
「今さら普通を期待する方がおかしい」
その通りだった。
深淵樹海は未だ攻略されていないダンジョンだ。
常識が通じるとは限らない。
やがて、通路の先に光が見えた。
「開けているな」
レオンが剣の柄に手をかける。
全員が速度を落とした。
そして、洞窟を抜ける。
その先に広がっていた光景に思わず息を呑んだ。
巨大な空間。
天井は高く、まるで地下に別の世界が存在しているかのようだった。
中央には大樹。
深淵樹海の木々よりもさらに巨大な一本の樹が立っている。
そして、その樹の根元で三つの影がこちらを見ていた。
「……猿?」
ガイウスが呟く。
三体とも猿型の魔物だった。
だが普通ではない。
どの個体も三メートル近い体躯を持ち、全身から濃密な魔力を放っている。
一体は巨大な棍棒を持ち、一体は双刃を構え、一体は後方で静かにこちらを見ていた。
そして、誰もが理解する。
強い。
今までの魔物とは明らかに違う。
「Sランクか」
テオドールが低く呟いた。
ルシアンも同じ結論に至っていた。
一体ずつならSランク下位相当。
勇者パーティでも十分に対処できる。
だが問題はそこではない。
三体ともこちらを見ている。
呼吸を合わせるように、まるで一つの生き物のように。
「連携してくるタイプですね」
ルシアンが言う。
「おそらく」
フィアナも頷いた。
レオンは三体から視線を外さない。
合同遠征を経た今だからこそわかる。
目の前の相手は強い。
油断していい相手ではない。
後方では試験官たちも緊張した表情になっていた。
グレイが静かに剣へ手を添え、セイルも魔力を巡らせていた。
四年生たちも同じだ。
普段なら手を出さない。
だが今回は別。危険だと判断したら即座に介入するつもりだった。
「どうする?」
ガイウスが尋ねる。
レオンは即答した。
「戦う」
ここまで来て逃げる理由はない。
全員の状態も良好。
試験官たちも控えている。
何より、この相手は今の自分たちを試すにはちょうどいい。
「いつも通りだ」
レオンが言う。
「俺とガイウスが前、ノエルは隙を見て動け。テオドールは援護、フィアナは全体支援」
そして、ルシアンを見る。
「頼む」
「ええ」
ルシアンは短く答えた。
その瞬間、三体の猿が動いた。
前衛の二体が左右へ散開する。
後衛の一体が魔力を練り始める。
「来るぞ!」
レオンが叫び、同時に地面を蹴った。
ガイウスも前へ出る。
テオドールが魔法陣を展開する。
ノエルは既に側面へ回り込んでいた。
そして、三体の魔物と勇者パーティの戦いが始まった。




