第258話
第258話
ダンジョン実習四日目。
勇者パーティは十六階層から探索を再開した。
ここまで来ると出現する魔物も明らかに強くなっている。
Bランクだけでなく、Aランクに近い個体も混ざり始めていた。
とはいえ、勇者パーティの足を止めるほどではない。
「右から二体!」
ノエルの声が飛ぶ。
木々の陰から飛び出してきた魔狼をレオンが迎え撃つ。
無駄な力は使わず、相手の動きを見て、最適な軌道で剣を振るう。
一体、二体、確実に仕留める。
「前より良くなってるな」
ガイウスが笑う。
「まだまだだけどな」
レオンも苦笑した。
合同遠征以降、ルシアンから何度も指摘されている。
強さではなく技術。
焦らず、一歩ずつ。
その意識は確実に成果となって表れていた。
戦闘の合間には素材も回収していく。
魔物の牙、魔石、薬草、深淵樹海特有の植物。収納バッグの中身も徐々に増えていた。
途中、Aランク下位の巨大蛇とも遭遇したが、大きな問題にはならなかった。
ガイウスが注意を引き付け、その間にレオンとノエルが側面から攻撃。
テオドールの雷撃で動きを止め、最後はフィアナの補助を受けたレオンが仕留める。
連携も安定している。
誰か一人に頼る戦い方ではなくなっていた。
そうして探索を続けた結果。
予定より少し早い時間に二十階層へ到達した。
目の前には巨大な石扉。
ボス部屋だ。
レオンが全員を見る。
「装備確認」
全員がそれぞれ武器や防具を確認する。
異常なし。
「疲労は?」
「問題ない」
テオドールが答える。
他の面々も同意した。
ここまで危険な場面はなかった。
魔力も体力も十分残っている。
「よし」
レオンが頷く。
「行こう」
巨大な石扉が開かれる。
その先にいたのは巨大な猿型の魔物だった。
全身を黒い体毛で覆われた大型種。
そして、その周囲には十体以上の取り巻きが控えている。
「群れ型か」
テオドールが呟く。
ボス個体はAランク、取り巻きはBランク前後。
単純な強さよりも数で押してくるタイプだった。
魔物たちが一斉に動く。そして同時にルシアンが指示を出す。
「テオドール」
「任せろ」
即座に魔法陣が展開される。
雷、火、風。
複数の魔法が同時に放たれた。
広範囲へ拡散した魔法が取り巻きを薙ぎ払う。
数体が吹き飛ぶ。
だが、それでも残りは襲い掛かってくる。
「ガイウス、左です」
「おう!」
大盾が振るわれる。
魔物を弾き飛ばす。
「ノエル、後ろです」
「わかってる!」
死角へ回り込もうとした個体を短剣で仕留める。
ルシアンは戦場全体を見ていた。
敵の動き、味方の位置、危険な場所。
すべてを把握している。
「レオン、正面」
「了解!」
ボス個体へ向かって走る。
フィアナの支援魔法が身体能力を底上げする。
だが、それだけだ。過剰な強化はしない。今の相手なら必要ない。
レオンの剣が振るわれる。
ボスが迎撃する。
だが、その隙を逃さない。
側面からガイウス、背後からノエル、遠距離からテオドール。
連携、それこそが勇者パーティ最大の武器だった。
数分後、最後の魔物が地面へ倒れ伏す。
戦闘終了。
「終わったな」
ガイウスが息を吐く。
「あっけなかった」
「数は多かったが、それだけだったな」
テオドールも頷いた。
危険な場面はほとんどなかった。
合同遠征を経験した今となっては、この程度の戦闘で苦戦することはない。
その後、一行は二十一階層へ足を踏み入れる。
少し進んだところで今日の探索を終了した。
野営の準備が始まる。
その様子を少し離れた場所から見ていたのは試験官と四年生たちだった。
「順調ですね」
ミレイが言う。
グレイも頷く。
「想定以上だ」
セイルは苦笑していた。
「本当に一年生か?」
その言葉にリゼリアが同意する。
「単純比較はできませんけど、少なくとも私たちの一年生の頃より優秀な子は多いですね」
少し視線を勇者パーティへ向ける。
「まさか三日で二十階層を超えるとは思いませんでした」
「そうだな」
グレイも頷く。
「いまのところ大きな問題もない。一安心といったところか」
そして夕食後、勇者パーティも明日の方針を確認していた。
「予定していた階層までは来たな」
レオンが言う。
「どうする?」
少しだけ考える。
余裕はあるし、怪我人もいない。魔力も残っている。
相談の結果はすぐにまとまった。
レオンが代表して伝える。
「俺たちはもう少し先を目指したいと思います」
グレイたちはそれを聞いて頷いた。
無謀ではない。
現状を見れば妥当な判断だった。
その後は今日の振り返りを行う。
良かった点、改善点、明日への課題。
それらを確認し終えると、それぞれ休息へ入っていく。
明日はいよいよ予定外の領域。
二十階層より先、深淵樹海の更なる奥が待っていた。




